「恐るべし!!フランス料理人」。伝統へのこだわりが、一流の人材を育てています。教育の目的は、知識を覚えることではなく、知識を通じて何かを身につけること。つまり、心手期せずしてできるようになることです。私が小隊長の頃、5年間担当していた部隊レンジャーの教育がこれでした。知識を使って実践する。自衛隊の勤務で最も充実し、やりがいを感じた、面白い教育でした。最後の「親があまり水を与えると、弱りますから」・・・・これは金言です。

見習いの続きですが、私たちの職業は、家庭の主婦の仕事をプロ化したものです。

掃除、洗濯、調理、給仕、育児(若い人を育てなければいけません。私もそうして育ててもらいました)。前にも書きましたが、1970年頃のフランスでは、中卒で社会デビューするのに、この見習いのシステムが都合よかったのでしょう。日本でも昭和37~8年(1962~3年)頃には、中卒で就職される方がおいででした。

私は3年間、通信教育で調理師の免許を取りました。料理はいいのですが、教科があるのです。Technologie Professionel職業工芸学、Technologie Cuisinnel調理理論、Hygiene Alimentaire食品衛生法規、Droit du Travail労働基準法がありました。

正直に言います。食品衛生法規は、如何せん読む量が多いのと、専門用語が多くて、辞典を引いても載っていなかったりするので、一度は諦めかけましたが、仲間に基本的なことを教えてもらい、何とかすることができました。

試験は2日間。初日が教科で、上記のほかに、フランス語の作文までありました。午後からは体育があり(これは聞いていませんでした!!)、80m走、走り幅跳び、高跳び、砲丸投げ、1500m走、4mの綱のぼりのいずれかで、私は、綱のぼりを選びました。

翌日は、料理本番です。 

見習いが覚えなければいけない料理の基本が書かれた、全国共通の本があります。120品目くらい、オードブル、スープ、魚、鳥、野鳥、豚、仔羊、仔牛、牛、サラダ、デザートで、焼いたり、煮たりと、とにかく料理の基本中の基本が書かれています。

自分でくじを引き、皆、違う料理法で、当たった料理のレシピと作り方を書き、実際に作ります。面白いことに、事前に何品か、出ないとわかっている料理があります。それは牛のヒレ肉と仔羊、そして伊勢エビとオマールエビです。お分かりだと思いますが、材料が高いものばかりです。

やはり緊張していたのでしょう。師匠に、会場のベルサイユの調理学校まで車で送ってもらったのですが、学校の前の土手に一面の黄色い菜の花が咲いているのに、まったく気がついていませんでした。

試験が終わって車のなかで、師匠が「どうだ」と聞いてきたので、Ca va bienサ・バ・ビアン「大丈夫です」と答えたときに、初めて菜の花に気がつき、生まれて初めて「花がきれいだ」と思いました。

結果は県で一番になり、地方戦を2度上位で通過して、最終的に全国95県中の4位でした。あと2点取れていれば、Grand Manierグランド・マニエというオレンジのリキュール酒の会社からの副賞で、お小遣い付き、モロッコ一週間のバカンスがもらえるところでした。惜しいことをしました。

見習いの良いところは、すぐに戦力にしないところ。

先日、東京テレビの「家について行っていいですか」という番組で、看護学校卒の若い女性で、働きながら看護師の資格を取った人が出ていました。この学校の生徒さんたちは、あまり裕福でない家庭の子が多いので、皆、必死になって勉強し、空いた時間に家計を助けるためバイトをしている、まじめな人が多い、と言っていました。

この人はモノになると思いました。親があまり水を与えると、弱りますから。