陸上自衛隊の訓練時に食する携行食。昔は缶詰(ご飯の缶詰、副食の缶詰、そしてタクアンの缶詰三種)が定番でしたが、今は1週間毎食違うメニューで食べられるほど多種類の美味しいレトルト食品が出てきました。

小隊長の頃(約40年前!!)、日米共同訓練で、米軍のパン、コーヒー、ピーナッツバター、トイレットペーパーなどがパッケージされているレーションと自衛隊の缶詰を交換してもらい、物珍しさも手伝って「旨い、旨い」と言って食べていましたが、一方、自衛隊の缶詰は米軍兵士の口には合わず、「何だ、これは?!」という表情。

ところが、レトルトの携行食が行き渡ってきた連隊長の頃(約20年前)になると立場が逆転。米軍が「交換しよう。自衛隊のは旨い」と言って、以前とまったく変わっていない米軍のレーションを差し出す姿が見られるようになりました。 豊かになる、進歩するって、こんなところに現れるんだなと、実感したことがありました。

ローストと云うと、皆さまはどのようなイメージをお持ちでしょうか。ローストビーフやローストチキンが代表格だと思います。オーブンで焼くのがローストとお思いでしょうが、オーブンでも出来ますが、本当は薪や炭の遠火でゆっくりと回転させながら火を通します。いわばバウムクーヘンのように、と云うよりも、バウムクーヘンが真似たのです。

原始的な調理法ですが、非常に理に適った料理法です。なぜかと云うと、ローストとは、見た目と違い、蒸し焼きなのです。料理材料の表面を焼いて膜を作り、その膜で材料を蒸していくのです。材料は、熱が加わると凝縮します。なかの水分は逆に、熱によって膨張しますが膜が張っているので中心の方に逃げていきます。しかし、なかには膜を破り、表面に出てくる水分もあります。これがジュースの基です。

このジュースの基は、血液なので、糖分やアルビミンが含まれており、アルビミンは熱によって周りの物質を含みながら凝固します。糖分は熱によってカラメル状態になりながら、かさぶたのように付いていきます。このジュースのかさぶたが多く付いていた方がおいしいので、材料の下にある受け皿に溜まるジュースを何回も何回も掛けて膜をつけるのです。ここにおいしい味が付くのです。オーブンでも同じで、中に入れたからいいというだけではなく、同じように何回も何回もジュースを掛けて焼く方がおいしく出来上がります。途中に香味野菜を入れると更に良くなります。

材料の大きさにより違いますが、30分火を入れたらば中心に逃げた水分を、同じ位時間をかけて元に戻して食します。

ちなみにCharcuterieシャキュトゥリ、豚肉を主としたお惣菜屋さんではゼリー(コンソメと同じ。ゼリーはゼラチン質が高く、冷えると固まる)を作るとき、レストランでは卵白でコンソメを引きますが、シュキュトゥリでは豚の血でブイヨンを澄まします。

6番、代打、ステーキ。決して代打ではなく名選手です。ヒレステーキやロースステーキ、サーロインステーキなどが有名です。

ステーキは、あまり厚い肉ではないので両面をさっと焼いて食するものです。私の考えと云うよりも、ステーキは注文が入ってから食する前に調理して、すぐに出すものなのです。ですから、ステーキを切って出すな、ということです。お客様が初めてお皿の上でナイフを入れると、ジュースが出るように作るのです。でないと、一番おいしいところをまな板が食べてしまうので、あまりにも勿体ない。一番おいしいところを捨ててしまうことになるのです。

牛のヒレ肉は、フランス語では、Filet de Boeuf ヒレドゥブッフ(牛)ですが、一般的には、Tournedos トゥルヌドと云います。Tourneは「回る」、dosは「背中」、すなわち肉屋の前で「ヒレ肉は高価なので、皆、背を向ける」からきています。ヒレドゥブッフは、1本で丸のまま料理するときに使います。

他の動物では、仔牛でも仔羊、豚でも、Filet mignon ヒレミニオン、可愛らしいヒレと云います。鳥類は、Filet ヒレです。

7番、ジャガイモ。

1939年~1940年に、南米のエクアドルのキトQuitoからスペインの巡礼で有名な St Jacque de Compostelle サン・ジャック・コスポステルのある Galice ガリス地方に入り、フランスには1940年に観賞用に入りました。その後、イギリスのSir Walte Raleigh サー・ウォルター・ラレィチがイギリスに入れ、ヨーロッパに広げました。

フランス人にとって、ジャガイモは、パンを作る小麦と同じくらい大事な主食用の農産品です。まず、非常に安価なことと料理法が色々あって、おいしいことです。フランス料理書で一番ページ数が多いのが鶏料理。野菜では圧倒的にジャガイモです。

ざっと云うと、Pomme maximum ポムマキシム(ジャガイモを1.5mmくらいに薄くスライスして、小さなフライパンに花のように塩胡椒をして丸く並べ、澄ましバターで火を通す)。Pomme Anna ポムアナ(ジャガイモを3~4mm位にスライスし、塩胡椒をして、バターでソテー(色をつけずに炒める)し、4~5cmの厚さにしてゆっくり火を通す)。Pomme Cocottes ポムココットゥ(5~6cmほどの小さなラグビーボールのように切り、水から一度沸騰させて水を切り、軽く塩をしてバターで色をつけながら火を通す)。Pomme Fondantes プムフォンダントゥ(ポムココットと同じですが、もっと大きく8cm位の卵形に切り、同じ調理法)。これらはジャガイモとバター、塩、胡椒だけですが、皆、味が違います。まだまだありますが。

皆さんご存じのポテトチップスは、メキシコでアメリカ人が薄いポテトを食べたいと云って、薄く切ってフライで出したのが、なかなか満足してくれず、何回も出した末、あの厚さになったそうです。

また、Pomme soufflees ポムスーフレと云うフライドポテトですが、風船のように膨らんだポテトです。これはパリから郊外のサンジェルマン・アン・レーブに鉄道が通った式典で、機関車が予定時間に着かずに、2度揚げしたならば、膨らんでしまったから、現在のようになりました。

ジャガイモ料理は、大変奥の深い料理で、安く、おいしい素材です。

8番は、デザートの失敗です。

有名なのは、Tarte Tatin タルトタータンで、パリから南に116kmにOrleansオレアン、ジャンヌ・ダルクで有名ですが、さらに南に30kmにあるLamotte-Beuvronラモット・ブヴロンで、20世紀初頭、ホテル、レストランを経営していたタータン姉妹が、Tarte au pomme fruit タルト・オ・ポム・フュリュイ(リンゴのタルト)を作ったところ、失敗して焦がしてしまいました。ところが、食べたところ、おいしかったのです。そこから発展し、リンゴをカラメル状にして作ったものです。

層になっているパイも同じで、リンゴ用のパイ生地を作ったところ、膨らんでしまったところから始まりました。パイは、フランス語でFeuilletage フイユタージュ、薄い葉と云ったら良いでしょう。

ちなみにパイにクリームを挟んだケーキを千枚Mille-feuile ミル(千)フイユと云います。この発展形がクロワッサンです。

9番、ワインです。

本当は、フランス料理の4番バッターだと思います。私も大好きです。なぜって、おいしいからです。一家に2ℓまで100%のアルコールを作る権利を持っている国ですから、色々な味があり、また自然の産物なので、大変奥が深いです。日本酒と同じです。

今から38年ほど前にあるお客様が、若い女性にワインを教えていらっしゃいました。

龍圡軒のワイン・リストの中の赤ワインで、1番安価なボルジョレをご注文いただき、「ね、おいしいでしょ」と話し、グラス一杯終わらないうちに、次のランクの赤ワインをご注文され、そして「ね、これもおいしいよね」と、同じ調子で後、4本、全部で6種類の赤ワインを試飲してから、女性に最初のボジョレを飲まし、一言「ほらね」と。

大変、粋な方でした。最後に、「おいしくないワインは、ないんだよ。ただそのなかに偉大なワインがあるんだ」と。

私の師匠のトゥラベーヌの友人、Portierポツチエ氏。1960年代のMFO、すなわちフランスワインのソムリエの利き酒フランス一を取られた方で、私もバカンスで一緒だったりして、可愛がってもらいました。また、東京芝の初代クレセントのオーナー石黒さんの時代、そのときのチーフが友人の関さんで、2回ほどポルティエ氏のフェスティバルをやられ、日本にお見えになりました。

彼は大変面白い方で、1年のうち半分はヨットで世界中を回っていて、彼の影響で、師匠もヨットを始めました。私も何回も乗せてもらいました。

ある平らな浮きを出し、「これは日本製のサバ用の浮きで、掛かると浮きがひっくり返って教えてくれるんだ。すごい」と。またレストランを自給自足にしたいと云って、野菜の話をしてくれました。

ワインの話では、「自分で店用に選んだワインならば、目隠しをしても分かるけど、ポンと出されたものは、分かるわけはないよ」と云っておられました。ただ、「Chateau Chaval-blanc シャトー・ジュバル・ブランは、本当に特徴があるので分かりそうだ」とおしゃっていました。 何が云いたいかというと、屁理屈はいいから楽しんで食事をして、飲んでください。