組織を動かすために大事なことを簡単に言えば、三つ。
- 明確な意志(やりたいこと)を示すこと
- それを説明して、納得させること
- やってもらいたいことを明確に示すこと
これがリーダーシップになります。
リーダーシップとしては、ほとんど語られないけれども、人や組織を動かすときに、最も苦労するのは、二番目の「説明と説得」です。
人は、新しいことに取り組むとき、最初は、無条件に拒否しようとしますが、それは本能的な反応で、仕方のないことです。
- 何故、今までと違うことをしなければならないのか、理由が分からない
- できるかどうか分からない
- 得るものがあるかどうか分からない
- 損するかもしれない
- 無駄になるかもしれない
- 苦労するかもしれない
やらない理由、やりたくない理由は、腐るほどあります。
自衛官は、何かを命じられれば実行しなければならない。好き嫌いを言ってちゃいけないし、そんなことは許されません。
それはそうですが、人間ですから、納得して動くときと納得しないで動くときでは、仕事の出来具合も、仕事に対する充実感も、それを命じた指揮官や組織に対する信頼感も、まったく違ってきます。
ですから、目標に向かう準備をする間に、時間の許す限り、マイナス要因を虱潰しに潰しにかかります。マイナス要因をプラス要因に変えるために、準備をすると言っても良いでしょう。
それは、個人に対してもそうですし、組織全体に対しても同じです。
- 仕事の意義を理解させ
- できる自信を持たせ
- 準備と実行によって、得られるもの(価値)を実感させ
- 仲間とのつながりを感じさせ
- 充実感を与える
そうすると、隊員は皆、オレがやったんだ、自分の力でできたんだ、と自信を持ち、次の仕事にもポジティブに向き合うようになっていきます。
この普段の努力があってこそ指揮官と部下との理解と信頼が生まれ、イザというときに、命令で動いてくれるのです。
若い頃、「指揮は、意志の強要だ」と教える人が多かったように思いますが、それを信じている人たちのコミュニケーションは、常に上から下へ、一方通行です。
一方通行の指導は、精神論的になりがちで、傍からも分かりやすく、結果が目に見えやすいので、素晴らしい指導者であるかのように思われて、その指導法は真似られ、蔓延してしまいます。
スポーツで、暴力的な指導者が良い成績を収めて如何にも良い指導者のようにもてはやされていたりしますが、あれはやらされている生徒たちがそのスポーツが好きだから成り立っているだけの話です。そのスポーツが好きでなかったら、誰も残らないでしょう。
私は、よく部下の幹部には、「人を動かすのは、命令ではない」「説明と説得の努力が9割だ」と言っていました。
仕事への不安感や目標実現への疑問をなくして、命令・指示(ひいては組織)に対する不信感を持たせないことが、隊員に能力を発揮してもらうためのキーポイントでした。誰も口に出すことはなくても、命令・指示への不信感は、そのような上司を登用している組織への不満や不信感、諦めにつながって、少しづつ組織を蝕んでいきます。
これは、今思えば、部隊や隊員にレジリエンス(困難に負けない、しなやかで強い心)を植え付ける仕事で、部下を(自分自身の力で)成長させる糧になっていました。
組織のレジリエンスを高める努力は、組織の内なる力を100%発揮させるために不可欠な日常的なもので、健康な身体を作るのに等しい、健全な精神を養うものメンタルヘルスケアだと思います。
これはさまざまな分野で学術的研究がなされている科学であって、普遍的な価値のあるものです。残念なことに、リーダーシップもメンタルヘルスケアも、その貴重な研究が専門分野に分かれすぎていて、総合化されていないのです。でも、現場にいる人たちは、自力でその成果を総合し、「科学」として活用すべきだと、私は思っています。
リーダーシップは、部下の健康な身体と組織のレジリエンスを高めるメンタルヘルスケアの努力があってこそ発揮できるものです。