状況が不明かつ流動的ななかで、自らが目標を定めて、自らの判断で行動する。そして、結果に責任を負う。

状況が分からないことは理由になりません。自分が決心したことについて、言い訳は許されません。しかし行動しなくてはなりません。これが自衛隊の幹部に求められる仕事です。

そのような環境のなかで、合理的に判断できるように、思考手順の原則が定められています。原則ですから、思考を縛るものではありません。

国民性によって、細かな考え方や内容は少しずつ異なりますが、ほぼ世界中の軍隊に共通する普遍的な思考過程で、手順はほぼ同じです。

陸上自衛隊では、若い隊員から上級幹部まで、同じ思考手順で教育し、漏れなく、無駄なく、偏りなく思考する習慣づけをしています。

考える要素は、立場や状況によって千差万別ですが、考える手順はほぼ同じです。もちろん原則ですから、さまざまなパターンが許されていて、禁止事項はありません。気をつけるように言われるのは、思い込みや固定概念や先入観に陥って、偏ったり、思考の幅が狭くなったりしないようにということだけです。

私も、数人規模の部隊の戦闘計画、数千人規模の大部隊の作戦計画、年度及び中期の計画、そして約20年間にまたがる長期の構想づくりまで、ありとあらゆる計画や構想を作る機会がありましたが、考える幅や内容、アウトプットは異なっていても、この原則は、常に参考にしていました。

それは、次のような手順です。

① 任務分析

役割を分析して目標を定める

② 地域見積

任務遂行に関係する環境や場を分析する

③ 情報見積

相対する者(敵など)の視点、立場から分析する

④ その他の見積

人・物・金他、専門部署から、可能性を分析する

⑤ 作戦見積

自分の行動の方針(選択肢)を分析する

⑦ シミュレーション

②~⑤を組み合わせてシミュレーションして最良の行動方針を選択する

⑧ 計画策定      

組織的に実行する要領を具体化する

時間に間に合うことを最優先にして、状況に適応した分析要領を選択しなくてはなりませんので、考える(分析する)内容の精粗、深さ、分析内容は、そのときによって異なります。

単純化すると、任務を明らかにして、任務遂行に影響する環境を分析し、敵の意図と能力を分析し、自分の能力に応じてやることを決める、という極めて当たり前の手順になります。

この「当たり前の」分析、検討の手順が決まっているおかげで、問題点の解決方法の案出と任務達成の可能性を追求することだけに集中できて、余計な感情は入る余地がなくなり、ストレスは極めて少なくなります。

あるとすれば、考えるストレスだけです。

上から下まで、同じような思考手順を踏んでいると、組織内に共通認識が生まれて、コミュニケーションがとりやすくなり、これもストレスが減る大きな要因になります。

余談になりますが、この思考手順は、(自衛隊ではPDCAサイクル(Plan計画、Do実行、Check評価、Act改善)の考え方はとっていませんが)、PDCAでいうP(計画)を創るための原則で、計画ができあがった直後から、情勢の変化に応じて、常に実行までのサイクルは回り続けます。

これを習慣化することがポイントです。

これは、単なるものの考え方ではなく、どのような状況においても通用する原則ですから、人間と組織の思考のストレスを減らす科学になります。

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