《早く行けば良いものが手に入るし、遅く行けば手に入らない。高い金を出せば良いものが手に入るが、安いものを買えば品質が落ちる。サービスを求めるのであれば相応の対価を払う。コスト・パーフォーマンスは払う人の責任。規制を求めれば、品質やサービスは均一になるかもしれないが、コストが高くなったり、手続や参入に制約が生まれたりする。規制を撤廃すれば、参入は容易になり価格は低下するかも知れないが、品質やサービスにバラツキが出る・・・・・・。
「因果応報」というとたいそうな感じだし、「自己責任」や「自業自得」というと叱られそうだけれど、世の中、どこかで諦めて、自分で飲み込むしかないところがあって、グダグダ言わずに放っておいてもらったほうが、気分がすっきりして、開放感が生まれるような気がします。》
師匠のドゥラベーヌの口癖は「フランスは30年先に進んでいるか、遅れている」でした。
最初聞いたとき、何を言っているんだろうと思った1970年9月でした。でも、フランスで生活してみると確かにその通りと云いたいのですが、どうも違うように思います。
確かに1970年の電話事情は当時の日本と比べると、公衆電話は少なくキャフェに行ってジュドンと云うコインを買って電話をかけるか、またはP.T.T Postes Telegraphes et Telephones郵便・電信・電話局に行ってかけるかでした。でもどうでしょう。今日は2020年9月26日、新総理大臣菅さんが云っている「携帯電話料金が高すぎる」でした。その国、それぞれに事情があるとは思いますが、手前どものお客様で海外との取引をなさっている方々が異口同音に云っていることは「日本は規制が多すぎる」です。
それを踏まえても私が1970年代に渡った当時、これは素晴らしいと思ったのが、前回書いたパリの中央市場、それもランジスにある新中央市場です。
まず何が凄いかというと、場所です。それはパリ近郊の旧国際線空港オルリー、何故“旧”と書くのかは新空港と云ってももう40年以上前に作られたシャルル・ドゴール空港があるからです。他にもブルジェ空港、こちらはプライベートジェットや貨物。
話を戻しますと、このオルリー空港のすぐ近くにあります。そして市場の回りに高速道路が一周しており、ヨーロッパからトラックで入出荷しておりました。もちろん空港の隣ですから空輸便も。私はこのランジス空港で嬉しい、そして大変苦い思い出があります。それは1974年の夏、2番目の料理協会会長の店、オーベルガードに入る前の話しです。
前に書いたパリから地中海のイタリア国境のソスペルにディディエの結婚式に行った帰りに起きました。
約1000kmの道程の途中、中間のリヨンを出ようとしたときに、アジア人のヒッチハイカーを乗せました。あと500kmも同じカセットテープを聴きながら行くよりも、話相手がいた方が良いと思い、乗せてあげました。何人だったかは覚えていません。たぶん尋ねなかったのでしょう。ソルボンヌの学生でした。
パリに近づき、お腹が空いたので食事をとろうと思ったところでランジス市場の案内が目に入り、行くことにしました。周遊の高速を降りて一般道に出て止まったときにエンストを起こしたのです。困っていると、通りかかったフランス人が車から降りてきて、車を見てくれました。バッテリーが上がっていたのでした。ずうっとライトをつけて走っていたのが原因でした。このフランス人は大変親切なランジス市場で働いている方で、2~3時間充電すれば大丈夫だからと云って、バッテリーを外し、私たちを車に乗せて市場の店まで連れて行って、充電してくれました。
我が愛車の位置を忘れないように、高速の出口の信号、そしてすぐに十字路、その十字路を左に入ると中央市場、と覚えて連れて行ってもらいました。3時間、ゆっくりと食事を取って、今でも忘れません。ザリガニのアメリケースソース。なぜかと云うと、私も同じものを作っていたので興味があったのと、いやらしい話しですが、エビが小さいのと殻が固いので剥くのが大変だったのです。前から是非食べてみたかったもので、美味しかったです。
3時間後にバッテリーを取りに行きました。有り難いことに持ちやすいように袋に入れていただき、御礼を云って車に戻りました。これからが最悪でした。自分の車の位置が分からないのです。行方不明になったのでした。それはこの市場があと何十年も使っていけるように空港の横に新しい土地を手当てしたために、高速道路と一般道路のアクセスが、皆、同じ作りだったのです。ヒッチハイカー君と歩いて探すこと1時間。やっと我が愛車シトロエン2chv2馬力を見つけ、帰れたわけです。一時はどうなることかと思いました。この話には、もっと阿呆なオチが待っていました。
寝泊まりしていたディディエのアパートに帰り、本当に疲れていたのですぐに寝ました。翌朝、車のキーを差し込み回しましたが、ウンともスンでもないのです。よく見ると、またライトをつけっぱなしでバッテリーが上がっていました。本当にドジでした。
中央市場のランジスが凄いのは、早朝に肉と魚、午前中に野菜、そして午後に花と分けられているので渋滞が起こらない。一種の早い者勝ちで、早く買いに来たお客が良いものを安く買えるのです。
日本のように、その日のうちに売り切ろうとして、遅くなると値を下げることはありません。彼らもプロなので、仕入れ量を計算しています。当たり前ですが、遅くなるとなくなるわけです。