《子供の頃にテレビで見たジョン・ウェインの印象。武骨で、野暮ったい感じがする正義の味方。スマートな印象はないが、何とも言えぬ存在感。あれが名優なのかどうかは分からなかったけれど魅力がありました。ああいう独特の雰囲気の俳優さんは見かけなくなって、皆同じように見えるのは、気のせいか、あまりテレビや映画を見ないせいか・・・・。

そんな役柄なのだろうと思っていましたが、この酔っ払いのエピソードを読むと、映画の主人公がスクリーンからそのまま出ていたのだ、いや、素のまま演じていたのかもしれないな、という気がしてきました。》

特徴「白髪の小太り」と云ったならば、風呂から上がった家内が「違うでしょ。白髪の短足でしょ」と。一言もありません。これは旧12チャンネル、今の関東では7チャンネルの警察24時で、容疑者の特徴と白髪の短髪、60代と云っていたのを見て、自分をモデルに云ったときの一場面でした。実はよく見る番組なのです。その理由と云ったならば可笑しいと思いますが、事実ほど面白いものはないので。大変失礼なことなのですが、テレビなので事件や交通違反の検閲などは無責任に見ていられます。実は白髪の短足も事実なのです。

それで今回はこれを書こうと思いました。

どうも家内は私の普段着に口を挟みたくてしょうがないようで、ついに自分が新しく買った今流行の伸び縮みする白いGパンを私に履かせようとしました。

私は通常コック服と黒いスラックスで、基本、年52日以外は着ています。すなわち日曜日以外です。それに自分の気に入ったもの以外は着ないので、色々あっても無駄になるだけ。白いGパンを試しに履いてみると丁度良いのです。びっくり。何がびっくりかというと、身長が10cmも違うのに、足の長さはさほど変わらないのです。ジルベールのズボンのように15cmの差はないにしても、1~2cmほどなので、昔懐かしいマンボズボンのように履けば結構いけるかもと。

そこで家内の「白髪の短足」が出てきたのです。

その夜、夜中に目が覚めてしまいなかなか眠れないので撮りためた映画でも見ようとテレビをつけました。何を見ようかと物色していると、ジョン・ウェインの名が目に止まりました。アメリカが生んだ偉大な映画スターです。色々なエピソードが残っている方で、その一つが、あれだけ大きな方なのにさらに大きく見せるために小さめの馬を使っていたとかですが、私の仲間も加わった別のエピソードがあります。

それは1974年の出来事で、もちろん主人公はジョン・ウェイン氏。そしてもう一人の出演者は、仲間のボーイ、ジャンです。

ジャンとは1976年に地中海の店、ジラルド氏のレ・サントンで知り合いました。彼は食の都Lyonリヨンから南へ30kmぐらい下ったVienneヴィエンヌ出身で、あの有名なレストラン、ピラミッドでボーイの見習いをした人物です。このレストラン、ピラミッドは、1930年代初頭から頭角を現し、1933年にミシュランの三星をフェルナン・ポアンセ氏が獲得。世界一のレストランとして、1955年3月5日に亡くなられるまで、料理界に君臨された方でした。

ピラミッドの名は、このヴィエンヌの地に2000年も前に古代ローマ人が建てた塔でアルルと同じように戦車競技が行われた円形競技場の真ん中に建てた記念碑からとった名前なのです。店の給仕はヴィエンヌ出身者しか雇わないようです。反対に料理人は色々なところから修行に来ていました、というよりも、フランスの名だたる料理長は皆、こちらの出身者です。代表は、ボキューズ氏、トワグロ氏、ウティエ氏、そしてペロール氏などの方々です。

ジャンもマダム・ポアンに育てられました。その後、英語を覚えるために英国に渡ったのでした。そして、これも世界中の人々が知っているあのビートルズのアルバム「アービーロード」の横にあるホテル(ホテルが世界中の人々に知られているわけではありません。悪しからず)に就職したのです。

このホテルに大スター、ジョン・ウェイン氏が投宿なされたのです。

この日、ジャンはバーカウンターの担当だったのです。

そこへジョン・ウェイン氏がお見えになり、お酒を飲み始めたのです。そう、“始めた”のです。何があったのかはジャンも知りませんが、酔いが回ったようで、ジャンが洗い物をしているときにガシャンとガラスが割れる音がして、その音のほうを見るとバーカウンター奥のお酒を置いてある飾り棚の瓶が3~4本下に落ち、奥の鏡が割れていました。

ジャンはすぐに理解し、これはやばい、本当にやばい。ジョン・ウェイン氏を見たならば何をされるか分からないと思い、その場に屈み込んだのです。すると第2弾のガシャンが聞こえ、さらに小さく屈み、頭を両手で覆って酒瓶のないところに移動したそうです。明け方近くまでこのガシャンは続き、そのうち大きな鼾が聞こえて、助かったと思ったそうです。

そして立ち上がり、周りを見渡すとバーは見る影もない状態で、部屋中にアルコールの匂いが立ちこめて、自分まで酔っ払ったような気がしたそうです。

ジャンが「Toshio、こんなとき誰も助けにきてくれないもんな~」と云った声が耳に残っています。

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