《これまでは、子供の頃からテレビを見る習慣がなかったのですが、仕事を辞めて、朝食事を摂りながら、NHKの朝の連続ドラマを見るようになりました。たまに映画を見るくらいで、ドラマにも俳優、タレントにも興味がなかったのに、最近、俳優さんってすごいなぁと、感じるようになりました。

ドラマが始まった当初は、 “演じている”のが伝わって来るのですが、回を重ねるにつれ役になりきっていくのです。娘は娘に、父親は父親に、なっていく姿が、実に面白い。

テレビを見ていると家内が、一言。「今年、うちも結婚40年よ」「なんだ、気にしていたの?」「まぁね。それほどでもないけど、早いね」と、さりげない会話。

そのとき、ふと、テレビドラマの主人公を演じる俳優と一緒だな、と。

他の家庭の夫婦がどうかは知りませんが、私の両親、家内の両親から感じたことと、自分たちのことしか分からないけれど、時間をかけて馴染んできて、我慢することが当たり前になって、そのうち諦めて、許して、受け入れるようになって、他人を受け入れることで自分自身も成長して、他人でなくなって、そうやって演じているうちに夫婦の役になりきってきたのかなと・・・。

そんな思いがしたのですが、皆さんは、如何、如何??(A.Y)》

今日、映画のワンシーンのような場面を西麻布の交差点で見ました。

前を行く老婦人が、これまた同じ老犬を引き連れてと云うよりも、ゆっくり歩みを進める婦人のあとをヨタヨタと老犬がついていくのです。見ていて何とも言えない安心感というか、漢字ではない心あたたまる光景。長年寄り添ってきた仲。人生、犬生の相棒なのでしょう。本当に映画のワンシーン。

あれ、どこかで見た感覚がありました。そう、それはルルーシュの映画、男と女のワンシーン。フランスの北、ノルマンディー地方の避暑地ドービルの海岸を老人が、同じく老犬を引き連れているワンシーンがあったのを良く覚えています。

今、家内にドービルで良かったのかを質すと、家内の方が良く覚えている、と云うよりも、家内のお気に入りの映画、この映画のなかで出てきた女優、アヌーク・エメのファッションに興味があったようです。そして、さすがに我が女房、料理家の女将。

『ドービルのホテルで食事を摂る場面で、ジャン・ルイ・トゥラティニアンがボーイさんにシャトーブリアンを注文して、ボーイさんが「他に」と聴くと、トゥラティニアンが「部屋」と答えるのよ』、と良く覚えているなと感心すると、「だって、アヌーク・エメのムートンのコート。それにシャネルのバッグ、素敵じゃない」と。

分かりました。これぞ、我が妻。

私のお好みのシーンは、海岸の散歩で、子供の足を爪先で引っ掛けて転ぶシーン。サン・ラザール駅のシーン。そしてモナコのラリー後の宴会場からパリに向かうシーン。いい時代のいい映画。画面でストーリーを説明しないで、それを観客に委ねてくれる優しさがありました。

昨日の夜、本当の映画をテレビで、と云う云い方も可笑しいか?

映画は映画館や広い空間で観るように作られているので、小さな屋内で観ているので、たぶん前者と後者では受け止め方が違うはずです。

料理も屋外で食するのと屋内では、同じものでも開放感がある分、だいぶ違います。また、あらかじめ屋外で食すること、場所が分かっていれば、当然、その場に合った料理を作りますから。

私は映画が大好きで、絶対テレビでは観たくない一本があります。それは、ピーター・オトール主演の『アラビアのローレンス』です。

初めて観たのは、今でもはっきり覚えている1971年の夏のバカンスで行った南仏のラ・バンドゥの露天(ラ・バンドゥは、フランスで一番季候が良いと云われている町)。師匠の孫、アニエス7歳とアレクサンドル5歳を連れて観ました。

白い大きな幕に,70mmのカメラで撮った大自然の砂漠、そしてストーリー、途中で休憩が入る長い映画でしたが、子供たちも黙って観入っておりました。今その場面を思い出して見ると、笑いがこみ上げてきます。

なぜかと云うと、あの長い映画で、おチビちゃん達が観られていたというのは、フランス語での吹き替えだったからです。あのピーター・オトールやオマール・シャリフ、そしてアンソニー・クインがフランス語。

フランスにいるときは別段、違和感を持つことはなかったのですが、フランスから離れて早や40年。何かおかしみがこみ上げてきます。

そう、昨日の映画の話でした。

それは高倉健さん、田中裕子さん主演の『ほたる』、2001年制作でした。大変いい映画でした。で、そのなかで22年ぶりに納得したことが一つあります。本当に、びっくりしました。

私が、22年前に戻ったと思ってください。

日曜日の朝、10時頃に自宅に行くためにオートバイで青山墓地の桜並木の坂道を登っていると、その前方に女性が二人、そのなかの一人が坂道の真ん中で両手を広げて舞うようなことをしているのです。一体何をやっているのだろう。道の真ん中、それも車道で。日曜日なのであまり車は通らないけれど、迷惑な人だなと思い、徐行しながら追い抜き際、その女性を観ると、なんと女優の田中裕子だったのです。

それにしても変だなと思うのと、迷惑な人だと思い、その日の夜に家内に話しました。

家内曰く「女優って大変な仕事だから、ストレスが溜まっているんじゃないの。たぶん」。私の答えも同じようなもの。優秀な人は変わった人が多いと云うから。うちの店にも東大の先生で変わった方が多いです。

それが昨日、解決したのです。

『ほたる』のなかのワンシ-ン、丹頂鶴のシーンで健さんと田中裕子さんが丹頂鶴を真似るシーンがあったのです。

え!これだったのか、と納得しました。

あの22年前の田中さんが、このシーンを意識しての舞いだったんだと。そのために、間近な自然がある青山墓地の坂道を選んだんだと。

その節は、大変失礼いたしました田中様。知らぬこととは云え、変な人と思い、本当に申し訳ありません。この映画も人生の相棒、夫婦愛でした。

夫婦愛と云えば、手前どものお客様でOさんという方がいらっしゃいます。

3年前にO様が、お世話になっている先生をご招待してお見えいただいたときに、奥様が認知症になられて、今、介護をしていらっしゃっておいででした。こちら様も30年来のお客様で、3月中頃にお電話をいただき、ご予約をいただきました。

でもこれは嬉しいことではなく、私どもには、辛い予約だったのです。

それはお電話で、Oさんがあと2年の命だ、と云うのです。それで今のうちに会っておきたい方々に会って御礼を云いたいので、是非、龍圡軒さんにも御礼を云いたい、ということで予約をいただきました。

で、1週間前に第1回目が。お約束の時間、1時間前にお見えになり、近況をお話し成されました。ご自分の病状のお話し、肺の細胞が徐々に死滅して行く病気だそうで、あと2年と云われたそうです。返す言葉がありませんでした。

その後、奥様への介護の話に移ると3度の食事の写真を見せていただきました。インターネットを参考に、色々と作られており、土日には奥様を施設に預かっていただいているそうです。

お話し方から、大変失礼だとは思いましたが、「Oさん、失礼だとは思いますが、今が一番幸せそうですが」と聞くと、「実はそうなんです。今が本当に充実していて、家内は妻と云うよりも同志というか、今まで一緒に歩んできたので。今、家内は私のことを分からないと思いますが、仰る通り、今が一番幸せなのかも知れません」と答えられました。

私も、大変良く理解できます。

父のときに、毎週日曜日に顔を見せ、頼まれたことだけをする、実働は何もしない10年でしたが、最後まで、父が自分の意志ですべてを決めることのできる人生を送らせてあげられました。それも父が私に、精神的余裕を与えてくれたからできたことなのです。

こんな幸せは、長男だからできたのです。 それを許してくれた姉や妹にも感謝です。

https://www.saibouken.or.jp/?p=4597