リーダーの役割は、組織を動かすことに尽きます。

組織は同じ目的や目標に向かって働く複数の人間で成り立っている概念で、一対一の個人的な関係では「リーダー」は存在しません。

リーダーには、「個人としての役割」と「部下を率いる組織の長としての役割」があるのですが、しばしば「組織の長としての役割」ばかりに気を取られてしまって、“個人の役割”を忘れている人や“個人の役割だけを考えている人”がいます。

“個人の役割を忘れている人”は、部下に命じることだけを考えます。

組織のなかに「命じる人と命じられる人の関係」を作ってしまいます。リーダーは命じる人で、部下は命じられて実行する人。厳格に、リーダーとフォロワーという区分をする人です。

そういう上司の下では、上司の言うことには従順だが、自分で考えない部下が育ちます。

イエスマン。

状況に変化がなくて、「それいけドンドン」という時には良いのですが、状況が時々刻々と変化する場合や状況の変化が大きくて不透明な環境下に置かれた場合には、何をして良いか分からなくなって、自分で判断して働くことができない人が育ちます。

指示待ち人間。

それに慣れてしまうと、リーダーは実行に責任を持たなくなります。

「部下の能力が低いから、仕事が進まない」と嘆くリーダーです。

自分の役割を忘れているのですから、部下に命じることだけが仕事だと思ってしまいます。部下に実行を任せていれば仕事が進むものですから、部下に依存するリーダーになってしまいます。

これに対して、“個人の役割だけを考えている人”。

部下と仕事を競おうとして、自分が仕事のできることを部下に見せつけようとします。

自分のチーム全体のことや部下のことを考えずに、自分の仕事の出来具合だけを気にかけます。

このような環境で育てられると、自分のことだけを考えて仕事をする人が育ちます。

リーダーは、仕事のできる人を高く評価しますから、上司に褒められることだけを考える人が出てきます。

また、リーダーとステレオタイプな人が育ちやすくなり、チーム内の多様性がなくなって落ちこぼれる人が出てきます。

リーダーは、組織を動かす人で、組織の長になる人です。

組織とは、二人以上の人。人間の能力には限界があって、直接指導監督することができるのは、せいぜい10人程度です。大きな組織は、その下に多くの階層があるので、何千人、何万人の規模になるのであって、リーダーが直接指導監督できるのは、どんなに優れたリーダーでも10人程度が精一杯。

その10人を動かして、その下に連なる多くの人たちを動かす。どこまで想像力を働かせ、自分の意志が伝わることをイメージできるか。

イメージできる範囲が、リーダーの影響力の及ぶ範囲になります。

“個人の役割”と“リーダーの役割”を明確に意識できる人は、自分の影響力の及ぶ範囲をイメージアップできる人だと思います。

ここで、先回お話しした“自分にしかできない仕事”に戻ります。

“個人の役割”と“リーダーの役割”を明確に意識することは、“自分にしかできない仕事”に気がつくことに他なりません。

かけがえのない仕事をすることに繋がります。

リーダーは、個人としても、リーダーとしても、他の人にはできない自分だけの担う役割、つまり「個性」を見出すことのできる人なのです。

よく個性を大事にしろとか、個性を育てろという人がいますが、真の「個性」は、チームのなかで自分の役割を真剣に考えて、役割を果たすことを追求する人だけが見つけることができ、身につけることができるものなのです。

本人は、仕事や目の前のことに一生懸命で、無駄がなく、効率的で、美しいものを追求して、そぎ落とそうとしているのだけれども、消そうにも消せない独特の考え方や仕草や行動様式や仕事のやり方、これが個性なのだと思います。

優れたリーダーは、アーティストでもあるのです。