組織づくりというと、すぐに、日本と外国とは違う、軍隊と民間の組織では違う、と言う人たちがいます。
私は、自衛隊で多くの隊員と接してきて、本当にそうなのだろうかという疑問を持っていました。見ていると、自分も含めて、同じ人間なのです。
レンジャーの教官を5年ほどやっていましたが、結局、レンジャーの隊員も元を質せば普通の一般隊員。さらに遡れば、当たり前の一般市民だったのです。バリバリのレンジャーの隊員になってからも、やはり一般隊員であり、一般市民でしかないのです。
そういう点、アメリカの学者の研究では、非常に広く、かつ深く実証的にリサーチした研究が見られます。はっきり申し上げて、私の勉強の範囲が狭いからかも知れませんが、日本人の研究者でこのようなものを見たことはありません。
その一つが、米国ネブラスカ大学リンカーン校のドナルド・クリフトン博士の「強み」をベースとする心理学の研究です。
博士は、1969年にSRI(Selection Reserch Inc.)という研究機関を立ち上げ、ビジネス界で成功する個人や組織の研究を開始し、人々が能力を発揮して成果を作り出す環境つくりに寄与する要素は何かを探求しました。
そして、1988年にSRIはギャラップ社と合併し、その研究成果を元にして具体的な調査手法(質問票)を開発しました。ギャラップ社は、会社や仕事に対する愛着心の調査項目を挙げ、世界中の企業の、なんと1300万人以上に対する調査分析を行って次の12項目の質問票を作り上げたのです。
- 自分が仕事で何を期待されているか理解している
- 仕事を適切に行うのに必要な資料や備品を与えられている
- 職場で、自分が最も得意なことをする機会が毎日ある
- 過去7日間の中で、良い仕事をしたと認められたり、褒められたりした
- 上司または職場の誰かが、自分を一人の人間として気にかけてくれている
- 職場で、私の成長を促してくれる人がいる
- 仕事において自分の意見が尊重されている
- 会社の使命や目的を読むと、自分の仕事が重要なものだと感じさせてくれる
- 同僚たちが質の高い仕事をしようとコミットしている
- 職場に親友がいる
- 過去半年間に、職場の誰かが自分の成長度合いについて話してくれた
- 過去1年間に、仕事で学びや成長の機会が得られた
⑥・⑨・⑩は「人間関係」に関する質問、①・⑥・⑪は「期待」に関する質問、④・⑦は「承認・褒賞」に関する質問です。「期待」に対する「承認・褒賞」という具体的な行動は愛着心を強くします。③は「強み」についての質問です。
人は、自分の「強み」を発揮しているときに最も充実感を感じ、集中できます。⑧は「何のために」自分がその仕事をやるかという目的、仕事の意味、意義を問うています。
①、⑥、⑧、⑨、⑪、⑫は、仕事に対して、自分を越えたもっと大きなものに意義を見出して、使命感を持って従事する、というニュアンスが表れています。
この12問の基本的要素として織り込んだのが、次の方程式で表した「組織における能力の最大化の理論」で、
1人当たりの生産性=能力×(人間関係+適切な期待+承認・褒賞)
つまり、組織の能力は、個人の能力と「①人間関係、②適切な期待(=目標管理)、③承認・褒賞(期待に相応しい評価)」の相乗効果で表されるというものでした。
一般の企業では、組織の能力を「生産性」として評価しますが、生産性の高い職場を実現するには、会社や仕事に対する愛着心の源として、「人間関係」を重視し、「強み」「意味、意義」に働きかけて、使命感を持たせることが重要だ、ということです。
これらに配慮することにより、良い人間関係を保ち、レジリエンスが強くて、生産性の高い仕事をする職場を作ることができるというのです。
自衛隊的に言えば、戦闘効率が高いと言うことでしょうか。
“戦闘効率”という言葉は、自衛隊でもあまり使いませんが、このように個人の生産性(戦闘効率)と組織の生産性(戦闘効率)をこういう用語を定義して、一つの指標として評価できるように研究すべきではないかと思います。
組織管理の技法を改善、向上させて、個人の能力発揮と組織の能力向上につなげることができるのではないかと思います。
それにしても、1300万人以上の調査研究結果として確認した、12のチェック項目と「①人間関係、②適切な期待(=目標管理)、③承認・褒賞(期待に相応しい評価)」のマネジメント指針は、どこの組織づくりにも通じるもので、リーダーは常に、強く意識するべきものだと思います。