立川市役所の青木勇防災課長にお話を伺いました。できることから何でも着手して、市民の安全を確保しようという積極的な姿勢が現れているお話で、具体的な施策を聞くことができました。
■地域の特性(国土強靱化地域計画から)
多摩地域における交通の要衝で、JR立川駅を中心に産業や文化が集積。
武蔵野台地といわれる多摩川北岸の台地の南西部に位置しており、海抜124.7m~64.9m。市の南端部を流れる多摩川沿いに低地が狭く分布している。
台地の中には、不明瞭な部分もあるが立川断層の段層崖とされる段差が見られる。
立川市内の広域防災基地は、南関東地域(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県) に広域的な災害が発生した場合、人員・物資の緊急輸送の中継・集積など災害応急対策活動の中枢となっている。
首都直下地震により震度6強の地震に見舞われた場合、死者70人、負傷者1,400人超、建物被害約5,000棟、帰宅困難者約56,700人が想定されており、令和元年東日本台風の際には市内25か所で避難所を開設した。
■内容
Q 立川市は、武蔵野台地の非常に強い地盤の上に位置しているので、広域防災基地が配置され、大規模災害時には政府の中枢機能の移転が計画されていると聞いています。
そのような地域での市民の方々の防災に対する関心は、どのように受け止めていらっしゃいますか。
A 他自治体のことは分かりませんので比較できませんが、市民の方々の関心は高いと思っています。比較的若い世代の方々も熱心です。
東日本大震災の際は多数の帰宅困難者がありましたし、近年の台風や大雨などによる水害への関心が高くなっていると思います。
Q 立川市が、防災計画、防災施策のなかで重視している災害は、どのような災害でしょうか。
A 地震と風水害になります。東京都の出している被害想定見積に基づいて計画していて、立川市独自の災害想定はしておりません。
Q 以前、立川断層帯の有無が話題になりましたが、多摩直下型の地震対策はお考えになっているのですか。
A 立川市が独自に、立川断層帯の調査研究をできるわけではありませんので、その調査研究結果が反映されている東京都の被害想定見積に基づいて計画を策定しています。
被害想定見積に基づく地震対策は、立川市全般の基盤的な防災対策を進めることによって強化しようという考え方をとっています。
立川市は多摩地区の交通の要衝になりますので、東日本大震災の際には、大変多くの帰宅困難者が出ました。首都直下地震に備えて、約1万人分の一時滞在施設を確保していますが、少なく見積もっても約1万7千人の帰宅困難者を予想していますので、まだまだ不足しています。
Q 広域防災基地や政府機能の移転等について、国との連絡調整や情報通信機能の整備などはあるのですか。
大規模な交通規制が予想されるでしょうし、国営昭和記念公園は立川市の広域避難場所に指定されたりしていますが。
A ありません。他の自治体とまったく同じで、都を通じての話となります。
Q それでは、風水害対策の話をお聞きしたいと思います。
A 重点地域は、市の南部の多摩川沿いの地域になります。
多摩川沿いの地域は、避難所が浸水する危険性がありますので、警戒レベルに応じて、避難場所を高台の地域に指定するようにしています。
避難所が遠くなりますので、避難を円滑にするため車で移動できるように、車両による一次退避場を設けています。まだ1カ所ですが数百台の収容が可能です。
また、要支援者などの避難を支援するため、タクシー会社と協定を結んで利用できるようにしています。
Q 居住地域以外の避難所に避難することになると、避難者の掌握や避難所の運営が大変難しくなりますが、何か対策は考えられていますか。
A 今は未だ、高台の避難所を指定することはしていません。居住地域からの距離や移動方法などの問題があり、住民の状況を把握し切れていないのが現状で、とりあえず避難所だけを示しています。
避難所の収容人員が一杯になれば、他の避難所に案内することになります。
また、この地域の高層マンションが多くあり、住民から垂直避難したいとの提案も出ています。住民の皆さんが非常に積極的で、提案してくださると私たちも動きやすくなりますので、有り難いと思っています。
今後、津波を想定している地域に作っている避難タワーを建設するような考えも必要ではないかと考えています。
Q 避難所の運営は、どのようにお考えですか。施設管理者の小学校長や中学校長と地域の自主防災会の方々と市役所の職員の関係は、避難所の開設から管理運営までの責任について、役割分担などについて、円滑なコミュニケーションが取れているでしょうか。
A 避難所開設の判断は市役所がするので問題ありませんし、学校との意思疎通も問題ありません。
避難所の開設時、市の職員4名を派遣して、開設を支援するように計画しています。
立川市の場合、避難所へ避難する方々は、地域住民以外にも多数あると想定していますので、避難者の掌握などは今後の課題です。
総合防災訓練で、運営委員会の方に参加して頂いて、避難所の開設要領を市の職員が展示したのは効果的だったと思います。皆さん、避難所開設要領をイメージできたということで評価して、喜んで下さいました。
考えられるさまざまなことに着手して、防災意識の普及に努めています。
Q 避難者の数は、どの位になるのでしょうか。自宅避難している方々への救援物資の支援などはどのようにお考えでしょうか。
A 床下浸水レベルで約2万人だったと思いますが、高層マンションもありますし、状況によって避難者数が変わるので、正確な数は把握できていません。
自宅避難を想定している方々には、自助をお願いしなくてはなりません。
Q 備蓄物資の集積場所や管理の問題は、どこの自治体でも共通する課題ですが、立川市では如何でしょうか。
A 備蓄物資は、3日分を備蓄するのが精一杯で限界があります。一次避難所30カ所に置いていますが、管理も非常に難しいです。
食糧品などは訓練時に供出して、逐次に入れ替えていて、予算は毎年度確保していますが、前年度同額の予算ですと新製品を購入しようとしたり、物価の上昇などがあったりして、買える数量が少なくなります。また、一度使ってしまったら元に戻せない備蓄品もあります。
備蓄品を増やしすぎても無駄になります。
備蓄物資の管理要領や運用要領は、根本的に見直す必要があると思っていますが、一自治体だけでは解決することが難しいと思っています。
Q 私が、米国カリフォルニアの危機管理局に研修に行った際、「資源(に関する情報)の共有」を非常に強調していました。
簡単に言うと、備蓄物資のリストを危機管理局で把握し、必要に応じて、危機管理局が各地域に備蓄している資源(支援物資)を供出するというシステムです。
ゆうちょ銀行でBCPを見直した際に、この考え方を取り入れて、各店舗に持つ備蓄物資は最低限に抑えるとともに地域毎に備蓄拠点を設けることにより、各店舗の備蓄物資と地域の備蓄拠点の備蓄物資を融通して運用するようにして、効率化することができました。
このような考え方でしょうか。
A まさにそのようなイメージを持っています。一つの自治体で完結させるのではなく融通し合うシステムを作ることで、予算も備蓄した物資も無駄なく効率的に使用できるようになりますから、広域での工夫が必要だと感じています。
Q 要支援者の避難について、国から名簿を作成して準備を整えるように指示が出されていますが、立川市の現状はどのようになっているでしょうか。
どこの自治体とも、要支援者の把握も実行性の確保にも苦労されているようです。
A 福祉部門で要支援者を把握し対処するようにお願いしていて、防災課が全般状況を把握しています。
まず、助けて欲しい人が皆、手を上げている状態で、誰が要支援者とするのかを精査する必要があります。輸送手段は、タクシー業界と協定を結んで確保していますが、要支援者をピンポイントで把握できていないのが現状です。
これを真の要支援者を把握して、支援や輸送の手段とマッチングさせていくのが課題になります。
Q 東京都は多摩地区と23区の地域に2分して、消防を統一運用するようにしていますが、市としては、それによって不都合を感じることや、市の独自の防災力を高めるための工夫をなさっていることなどはありますか。
A 消防はお互いの信頼関係も強く、非常に良い関係ができていて、効率的に運用されているので問題ないと思います。
立川市は、消防団が団長の下で大変統制が取れて良くやってくれていますので、普通火災などの貴重な戦力になっています。人数は約150名で、少しずつ増えています。
立川市には、普通団員の他に約150名の機能別団員がいます。
これは、看護大学と協定を結び、学生消防団員として避難所での応急救護をしていただきます。これによって、普通団員は消防業務に専念してもらえます。
Q 国土強靱化地域計画を策定されています。国の国土強靱化計画は、アンブレラ計画として各省庁の計画を統合するように位置づけられ、予算面でも、国土強靱化計画で精査されるようになっていますが、市ではどのようになっているのでしょうか。
39に細分化されている施策の整合を図るのも難しいだろうと思います。
自治体によっては、コンサルティング会社に依頼して策定しているところもあるようですし、住民の意見を吸い上げて策定している自治体もあるようです。立川市では、どの様にして策定されているのでしょうか。
A 同じようにアンブレラ計画として位置づけられています。ただ、市の長期総合計画が7年計画ですから、まだ整合は取れていません。
地域防災計画の大きな修正は東日本大震災後でしたが、必要の都度、修正するようになっていて、毎年修正しているので、整合がとれています。
Q 長期総合計画は、何年までの計画になるのでしょうか。
A 2024年までです。
Q そうすると、2022~2023年の長期総合計画策定の過程で、国土強靱化地域計画との整合をとるということになります。それまでは逐次に個別計画を整合させていくことになるのでしょうか。
A おっしゃるとおりです。
しかし、各細部計画は業務を担当している部署毎に作成しているので、すべての計画を統合するのは難しいのが現状です。
役所内で、国土強靱化地域計画や防災計画に対する理解を地道に深めていくことが必要だと思います。
長時間、熱心にお話をしていただきまして、ありがとうございました。
【後記】
国土強靱化地域計画をアンブレラ計画として、長期総合計画、防災計画、個別の業務計画との整合を取れば、防災施策の推進がより一層やりやすくなると思います。
計画を作ることが目的ではなく、計画を作る過程において、業務の縦割りを排して、職員の意識をまとめ、一体的な組織運営ができる基盤を作ることが重要です。
組織内で整合の取れた計画を作るのは、作業時間と仕事の進め方を考慮したスケジュールの調整と、部内での意思疎通を図る組織運営ノウハウを確立することが不可欠です。
一つひとつは難しい話ではないのですが、何をどうしたら円滑な組織運営ができるのかをルール化して共通認識を持たせること、つまり皆の意識をまとめることが難しいのは、どこの組織でも同じです。
簡単に言うと、このような手順になります。
① 企画部門で「方針案」を出して審議し、「方針」を決定する。
② 出された「方針」に基づいて「各部門の構想(計画の骨子)」を策定し、整合を図る。
③ 整合の取れた「構想」に基づいて具体化し、「計画」を策定する。
④ 「計画」に基づいて、実行要領を決める
⑤ 「命じて」、実行する。
業務要領がルール化され、仕事の進め方の共通認識ができていないと、組織運営のノウハウとはなりません。
何回も方針に立ち戻ってフィードバックを繰り返しながら業務を進めることがとても労力がかかる仕事だと思われるかもしれませんが、一人ひとりが組織全体の動きを理解して全員が連携を取って、齟齬なく動いていける計画を策定するためには不可欠の手順です。
状況の変化に即座に対応できる危機に強い組織を作るための一つのプロセスでもありますから、国土強靱化地域計画策定の機会を通じて、防災計画をより実効性のあるものにして頂きたいと思います。
以上