鴨川の水源

京都の水を治め、気を養い、鬼門を抑えてる場所にあると言われる貴船(気生根)神社に、「舟形石」というのがある。

創建の伝説に、1600年ほど前、浪花の津(大阪湾)に黄色の船に乗った女神(玉依姫:神武天皇の皇母)が現われ、淀川、鴨川をさかのぼり、貴船の奥宮の河畔のこんこんと水の湧きだすところに上陸された、その場所に社殿を建てて、神様をお祀りし、黄色い船が貴船の地名の由来になっている。

また、そのときに舵を巧みに操った神をお祀りしたのが、末社・梶取社だということになっている。

ということで、貴船神社は山のなかにあるのだが、「航海安全の神」としても信仰が厚い。

自衛隊の船には、艦艇の名前や建造地に由縁する全国各地の由緒ある神社から神様を分霊していただいて、神棚を祀ってある。

貴船神社の神様を守り神として祀っているのは、平成29年に就役した潜水艦「せきりゅう」で、名前からして、南方の海を守る貴船の龍神「赤龍」に由来するそうだ。

潜水艦はもう一隻、平成17年に就役した「たかしお」にも祀られていて、かつては、36年間日本の海を守り続けて退役した護衛艦「くらま」にも、お祀りされていた。

こういう神事は、神頼みだと言えばそれまでなのだが、折々に神棚に向かうことによって、それをお祀りする人間の「決意」を現わしているものでもある。

安全祈願は単なる安全祈願ではなく、意味のあるものとして受け継がれている。

そこにある歴史や物語に思いを致すことによって、自分たちだけの安全ではなく、日本の安全、ひいては歴史を引き継ぐ意識への気付きを与え、日本を守る気概を育てていくことにつながっていく。

くり返して事故を起こした船を調査していたら、昔から祀ってある神様(棚)を粗末に扱って、棚のように使っていることに気が付いて、きちんと神棚を整え、酒を上げてお祀りしたら、ピタリと事故が収まったなどと言うエピソードを聞いたことがある。

防災も同じことで、様々な施策を一人ひとりの「決意」と結びつけて、初めて成り立つものだと思う。