6 応急災害対策を担当する関係機関

~国の防災組織の在り方~

阪神淡路大震災では、神戸市の機能が喪失し、兵庫県の指揮機能(災害対策本部)が立ち上がるまでに時間を要し、応急対策に従事する勢力が決定的に不足したが、震災当初は、主として地方自治体の行政区域内の大規模災害だという認識が強かった。

しかし、復旧後、震災が及ぼした経済的影響を検証するとともに、国として取り返しのつかないほどの大きな傷跡を残していたことが明らかになった[1]

複数の県に大被害をもたらした東日本大震災を経験し、さらに確実に発生すると予測される南海トラフ巨大地震や首都直下地震の被害想定を考えたとき、改めて、国家的な危機事態への備えの必要性を深刻に認識するようになってきた。

しかし、国家的な危機事態への対応は、国としての顔が見えることが大前提であるにもかかわらず、日本の防災体制は旧態然としたままで、地方自治体と関係機関任せになっている。

災害応急対策を担当実施する消防庁、警察庁、国土交通省等の関係機関は、被災自治体を応援する責務を果たすため、全国から応援部隊を集めて対処する能力を充実強化しようと努力している。担当省庁は、地方組織(市町村消防、都道府県警、国土交通省地方整備局)に全国運用に対応できる能力を整備するため、防災基本計画、南海トラフ地震防災対策推進基本計画、首都直下地震緊急対策推進基本計画等を根拠として、各個に予算要求している。 

国家的な危機事態への対応に責任を持つ主管官庁がないため、各省庁の専門的な能力強化の施策が先行し、対症療法的な対策になっているのが問題点だ。

もう一つ、国家組織の在り方から考えて、健全かどうかという問題がある。

本来、消防は市町村、警察は都道府県の管理下にあり、消防庁や警察庁は、地方組織を統括するための行政機関であった。地方自治の枠組み内で責務を付与されていた組織が、いつのまにか国家的な実働組織の役割を担おうとしている。

例えば消防の場合、市町村消防で、市町村の消防本部が独立した指揮権を持つから消防庁長官には指揮権がない。国の指揮権が及ばない地方組織のまま、国家的な危機事態へ対応するため、市町村消防を所管する組織の強化が進められている、という問題だ。

この歪さは、郵政省の所管する郵便局が独自の力を持っていたのに似ている。しかも、消防は、国家的な危機事態への対応を主管し、第一義的責任を持つのだ。

警察もまた逐次に全国運用能力を整備しているが、災害対策については、都道府県警察の能力の範囲内で、災害時の治安維持のために被災都道府県警を応援するのが本旨だ。

これまであまり取り上げられてこなかった災害時の治安維持の問題は、インバウンドが増加するなか、ますます重要性が増していく。問題が起きてからでは遅い。万全を期して整えることが必要だ。関東大震災の時には、外国からの間接侵略阻止が政府の大関心事であったが、現在は当時よりさらにその危険性は大きくなっている。

本来の治安維持の任務遂行能力の整備を優先し、警察の災害救助活動は余力を持って対処すれば良い。国家レベルの災害対応を理由に都道府県警察の組織改革を行って全国レベルでの運用能力を整備するのは地方警察の本旨に反し、組織の性格を変えてしまう。もし国家警察として必要な機能であるならば、別途、整備すべきだろう。

国土交通省地方整備局の災害応急対策部隊TEC-FORCE[2]の災害対応能力と情報収集能力は、危機事態への対応を主管する組織(「危機管理省(仮)」)の統制下に置くことで、より有効に活用できる。国として災害情報の共有を進める。

約1万人の勢力だが、災害時の専門部隊ならば平時から「危機管理省(仮)」の管理下に置けば良いし、平時に重要な役割があるならば現在のままにしても良い。道州制ができればその管理下に置いても良い。本来、国土交通省のインフラの維持管理を担当していた部署で存続の危機にあったものが、2008年に創設され、防災基本計画等で位置づけられている部隊[3]なのだから、目的に応じて再編して何の問題もない。

TEC-FORCEは地方自治体を“応援”するためのものではなく、国が主体的に災害に対処するために優れた能力を発揮すべき組織だ。大規模災害や国家的な危機事態に国の機関が出動して活動し、「地方自治体から応援を感謝される」枠組みしているのは、実に奇妙奇天烈なことだ。任務に基づいて一意専心、国民のために働く姿こそが本来の姿だ。もちろん、現在もそのように働いてくれているのだが。

日本の防災態勢は、国が総力を挙げて市町村を応援して対処することをうたっているのだが、すべての関係機関に責務を示しているがゆえに責任の所在が不明確になってしまい、現実には「国民の生命と財産の保全」に誰も責任を持たせない制度になっている。

また、日常の災害に対する危機管理の機能を国にも地方自治体にも常設しない制度は、国全体の危機管理意識を失わせてしまったように思える。


[1] 大震災が地域経済に与える影響について~阪神・淡路大震災をケーススタディとして~(2011年12月22日 (株)日本政策投資銀行 関西支店・東北支店)<4D6963726F736F667420506F776572506F696E74202D2091E5906B8DD082AA8C6F8DCF8C6F8DCF82C9975E82A682E989658BBF28838A836F83438358292E70707478>

[2] mlit.go.jp/river/bousai/pch-tec/mov/autonomy_movie.mp4自治体職員の皆様へ 支援内容のご紹介

[3] 「TEC-FORCE創設10年について」(国土交通省 水管理・国土保全局 防災課) siryou7.pdf