昨日は、憲法記念日。コロナ対策に関連して、憲法改正と緊急事態条項の検討が話題になっていました。
コロナ対策は、国の統治機能が動いているケースなので、憲法改正にまで一挙に踏み込むことの是非から議論になってしまいます。しかし、首都直下型地震、特に都心直下型の地震を想定した場合は、まったく状況が異なります。
首都直下型地震(都心直下型地震)の場合、国の対策の焦点は、国家統治機能の維持になります。
阪神淡路大震災も東日本大震災も、首都機能(国家統治機能)が生きていましたから、国がやるべき第一の施策は、地方自治体(都道府県)の責務である「住民の生命、身体及び財産の保護」を最大限に支援することでした。
つまり、人命を救助し、生活支援をし、そして財政金融処置により早期の経済復興を計ることでした。
阪神淡路大震災ののち災害対策基本法を改正する際、それまでの非常事態と緊急事態の二つの根拠規定がありましたが、非常事態をなくしてしまい、緊急事態のみにしてしまいました。その理由は、「そのような事態は想定し難い」というものでした。
そこには(当時、私が勝手に想像したことですが)暗黙のうちに、「首都機能は大丈夫だ」という認識があったように思います。
それは緊急事態が、「国の経済及び社会の秩序の維持に重大な影響を及ぼす異常かつ激甚な災害」だと規定していることに表れています。
それはともかく、首都直下型地震の場合、東日本大震災に比べて、比較できないくらい経済的被害の大きな地震だという視点で語られることが多いですが、真の焦点は、国家の統治機能を維持して、国家としての責務をどう果たすかであって、これまでの大規模災害とは対策の焦点がまったく異なります。
したがって、住民の生命の確保等の責務は、相当部分、自治体に委ねざるを得ません。
しかしそのとき、自治体(東京都)が住民の生命の確保のため、どのような機能と能力を持っているか、ということが大きな問題になります。持っていないのです。
当然、自衛隊は、国家統治機構の維持・回復のための活動を最優先にして、並行的に人命救助活動をすることになります。(秘密保全が厳格だったのかもしれませんが、私が現役当時、「国家統治機能の維持・回復のための活動」について聞いたことはありません。)
国の対策の焦点は、次の四つ。
- ①国家統治機能の維持
- ②治安の維持
- ③国家としての責務、特に在日外国公館(職員)の安全確保
- ④国家機能(政治的、経済的)の維持
- ⑤民心の安定
国家の統治機能の維持として五つ考えられます。①は言わずもがなとして、それ以下をどのように確保するか。
- ①天皇陛下(皇統)の安全確保
- ②行政機関(内閣総理大臣)の指揮権の継承・確保
- ③行政機能(各大臣以下)の維持
- ④行政指揮官補佐及び行政執行機能(中央官庁)の維持、または代替手段の確保
- ⑤国会機能の維持、または代替手段の確保
- ⑥情報発信(広報)機能の確保
仮に、立川に政府機能を移すのは良いけれど、各省庁の代表者、官邸スタッフ、情報通信機能、管理運営要員、移動手段、兵站支援態勢等々・・・を整えて、手続き要領、運営要領を決め、実効性のあるものになっているかどうか。
まず国の意志決定(指揮)機能を維持することが最優先。
国会議員が地元に帰っている時期、選挙期間中等々、国会機能をどう維持するのかも大問題。全員は無理でしょうから、野党の代表者だけには、国で処置をして、参集してもらうのかもしれません。そのときには、しかるべき立場の人にはGPSを持ってもらい、24時間、位置情報を把握することも必要でしょう。
「個人情報だ」などと言って嫌がる人はいるでしょうが、個人情報を保護することは当然であって、緊急時に国民の生命財産の保護のために働くことと個人の問題を天秤にかけるような人は、参集すべき責任ある公務に就くことを自ら拒否しているに等しい。
在外公館の職員の安全確保については、また次の機会に。アメリカ等の主要国が、自国民の保護計画を持っているのは間違いありません。それが国の使命ですから。
「鶏が先か、卵が先か」というような議論になってはいけないので先に、「緊急事態条項は必要だ」と言っておきますが、こういったことを検討した上での緊急事態条項になるのであって、憲法に緊急事態条項を設ければ解決するという問題ではありません。緊急事態条項で、超法規的に対処すれば良いというのは、極めて無責任です。
これらの検討は速やかに取り組むべき目の前の喫緊の課題です。
「今はそういうときではない」というものでもなく、不断に継続して行うべきものです。
もし検討中にそのような事態が起きたならば、一部であっても、すぐに実行できるものを積み上げていかなくてはいけません。
災害は、待ってくれません。