《岡野さんのお話も最終回になりました。是非、皆さまの感想などをお寄せ頂ければ有り難く存じます。
ナポレオンによって取り入れられた「国民皆兵」は、フランス人にとって、それまでの国王配下の貴族などにだけしか許されていなかった「(国王の)国」のために戦うことを一般庶民にまで許されるようになった、フランス革命により勝ち取った「自分たちの国」のために戦う権利であり、「誇り」でもありました。一方、外人部隊には傭兵的な性格があり、フランス人が外人部隊に入るときには、氏名、生年月日から何から何までまったくそれまでと異なる、書類上の別人として登録していたそうです。国軍に対する「誇り」の裏返しが傭兵としての取り扱いだったのでしょう。それで犯罪者が逃げ込んでいた時代があったのですが、歴史って面白いですね。》
私のフランスの友人は、皆、徴兵で軍隊に入隊しております。女性は別ですが、なかには外人部隊Legion Etrangereレジオン・エトランジュール出の人もいます。その話をしましょう。
飛行機の乗れるというので空軍に志願したPhilippeヒリップというボーイがカメリアにおりました。人柄は穏やかで、冷静沈着で、現在ベルサイユ宮殿の近くでカフェを経営しております。フィリップは、空軍に入隊し、輸送機に乗ったそうです。ただし地上に駐機している飛行機に、機首から乗り込み、尾翼の下の荷物積み出し口から降りて、これが飛行機だという説明を受けて終り。彼の性格からか、ついに飛行機には乗れず、管制部門に回されました。
軍隊で一番強いのは誰か。それは20歳の兵隊の口を握っているコックたちです。軍からは2ヶ月に1回、2カートン20箱のゴロワーズというたばこと、3ヶ月に1回、20枚の葉書用の切手、そしてわずかな給金。衣食住は心配ないのですが、そこで一番問題なのはお腹が空くこと。そう、食事なのです。ですからステーキ1枚でほとんどの物が手に入ると、調理場の人間は皆、言っておりました。だから最強だと。
これから書く、Chibertaシベルタの部下でJean Jacqueジャン・ジャックは、調理師国家試験で全国1位だったので、徴兵ではエリゼ宮の調理場に行きました。大統領付のコックです。私も、もしもフランス国籍を取って徴兵に行けば、大将付のコックにはなったはずです。
オーベルガードゥで私に乗馬を教えてくれたドミニックは、ドイツに赴任しておりました。このとき、撤退訓練があったそうです。何をするのかというと、残った装備品などが使われて敵の有利にならないように、使えないように時間内に、すべて壊すのだそうです。
まさかストーブも・・・と思い、質すと、もちろん動かせないから徹底的に壊すのだそうです。大変だったと。たとえ電球一つでも、明かりが採れて作業できるようになると敵に有利になるのだから、と言っていました。確かにそうで、これは遊びではないのです。軍事訓練なのです。
その後、自分たちで片付け、野営しながら、現場を検証し、必要なものを発注し、設営し、確認、反省で、終了だそうです。
もう一つ、彼のいた部隊が戦車隊なので、ドイツのアウトバウンを重戦車で80km/hで走行して、アウトバウンを壊したとドイツ政府からフランス政府に抗議があり、フランスの国会で問題になったそうですが、連隊長の将官には何のお咎めもなかったそうです。法律で、軍の財産の(人間も含めて)年7%までの損失が認められていると、言っていました。
サントンのソムニエのMauliceモーリスは、やはりドイツに行っていました。48時間の休暇の際に、村のカフェで若者たちに因縁をつけられて、殴られて帰隊すると、隊長が小隊を連れて村のカフェにお礼参りをして、カフェを壊したそうです。それ以来、村の人たちは、兵隊に親切になったそうで、裏でキチンと話をつけたのだろうと、モーリスは言っていました。
外人部隊Legion Etrangereレジオン・エトランジュール、なんとも言えない響きで、昔、よく映画に登場しました。
最後の店、シベルタのオーナーRichartリシャール氏から、夏休みに友人の店の面倒を見てくれないかと言うことで、行った店のボーイJeanジャンが外人部隊出身だったので、面白いので話を聞くと、私も皆と同じイメージを持っていたことが分かりました。
そのイメージとは、ならず者の集まりで、危険、そして犯罪者。昔は確かに犯罪者が逃げ込んでいた事実はあったそうですが、実態は、1979年当時の外人部隊を日本語で表現すれば、“特需重用職業軍人”だということでした。つまり、軍事のプロ集団なので、各自の信頼が一番重要だと言っていました。たしかに時々、犯罪者が逃げ込もうとして、入ってくるそうですが、最初の3ヶ月の見極め期間に全員の身元を調べ上げるので、警察に連絡して引き渡すとのこと。
この入隊の見極め期間が重要で、一人一人の個人データを取って、徹底的に調べ上げ、それぞれの人に向いた任務、認知に振り分けられるそうです。1年の契約だそうで、スポーツ好きには向いているそうで、海や山の特殊業務を担って、国外で勤務することが多かったと、言っていました。