よく組織を動かすときに、トップダウンで動かすのか、ボトムアップで動かすのか、という人や組織の動かし方にこだわり、神学論争をする人がいます。
結論だけ言えば、答えはありません。意志決定は、「時間に間に合う」ことだけが焦点で、意志決定プロセス(過程)は問題ではありません。
意志決定プロセスは、トップ・リーダー(指揮官)の性格によっても、仕事の性格によっても、その組織内で養われた構成員の性格もよっても異なります。
一般的には、時間がないときには、時間に間に合わせる必要性から、トップダウンで決める傾向が強くなります。
トップダウンで、言われたことを実行するように躾けられた組織をボトムアップで動かそうとすると、業務の効率が悪くなることがあります。逆に、ボトムアップで動くことに慣れた組織を、トップダウンで動かそうとすると、機能不全に陥ったりします。
だから、仕事が円滑に進むのであればどちらでも良くて、意志決定が、時間に間に合えばいい。それだけです。
時間がない場合、トップダウンでの意志決定は、方針が早期に示されることで、無駄なく、効率的に動くことができます。
しかし、どうしても検討の幅が狭くなりがちなので、「朝令暮改」「優柔不断」になると、組織全体がパニックに陥ったり、混乱して、動かなくなったりします。
「君子豹変」は許されるのですが、方向性が定まらないと、あれやこれやと無駄作業が多くなってしまいます。また実行者が、納得できなければ、ただ指示を待つだけの人が出てくることになり、組織全体の創造性や柔軟性が損なわれていきます。
ボトムアップでの意志決定は、時間に余裕があり、かつ状況が不透明かつ流動的で、先が読めない場合や組織が大きい場合や問題が複雑多岐にわたる場合などに適していて、漏れなく、幅広く検討することができます。
検討する過程で、組織内の共通認識ができあがりますから、一度、動き出したときの組織全体の動きは驚くほど円滑に速くなりますし、状況の変化への対応も柔軟になります。
このときに必要になるのが、トップ・リーダーから出される「指針」です。
組織を動かす意志決定ではないけれど、結節において、仕事の方向性を示すもので、部下の仕事を進めやすくするアドバイスだと思って良いでしょう。
トップ・リーダーは、適時に「指針」を出しながら、部下が参画意識(当事者意識)をもって、仕事をしている状態にする。トップ・リーダーに「指針」というアドバイスをもらった部下が、自分の意志で仕事をしている状態にすることが理想です。
そして、危機管理を所掌する人たちは、トップ・リーダーが「いつ、何を決心しなければならないか」を念頭に置いて、トップ・リーダーが適時の指針を出すことを補佐する仕事のやり方、能力を身につけることが必要です。
そして、最も重要な場面でトップ・リーダーを補佐する役割を担って、最後の砦となるのが、危機管理を所掌する人たちです。
余談になりますが、トップ・リーダーは、総合的に判断することが許されています。
組織における仕事の判断は、職務権限に基づいてなされますから、機能的な責任を担っている各セクションのリーダーは、どうしても分析的な判断を優先せざるを得ませんが、トップ・リーダーはそうではありません。
「上司は思いつきでものを言う」と言われる由縁です。
各セクションで優秀な業績をあげ、かつ総合判断力(言い換えれば、直感力)の優れた人材をトップ・リーダーに引き上げていくのが、人事です。トップ・リーダーに、想像力や独創性が必要だと言われますが、言葉を換えれば、経験に基づく総合判断力です。
それが大事な場面で「指針」となって現れます。
優れた総合判断力を活かして決心できる人材だから、トップ・リーダーの責務を担っているのだ、ということであり、そうではない人材がトップ・リーダーの座に座っていたならば、それは、積年の人事上の誤りだと言わざるを得ません。
そうは言っても、組織全員で集団心中するわけにはいかないので、トップ・リーダーの個性に応じて、部下たちは必死に頑張って支えていく、ということになります。