《イチゴレードルと同じような話は、自衛隊でもよくある話。先輩が、当たり前のように「○○持ってこい」と言っても、新入隊員にはまったく通じない。

かく言う私も、演習準備をしているとき、資材のリストに書いてあった“カケヤ”とか“カスガイ”が分からなくって「これって何ですか?」と聞いて、部内選抜の古参幹部から大笑いされたことがありました。面白がられて、追い打ちをかけるように「じゃあ、これは知っとるか?ドンゴロス、サスマタ・・・」。

「・・・・聞いたことないけど、何ですか、それ?」。「おーい、持ってきて見せてやれ。知らん者がいるとは思わなんだが、時代が違うのかな?」なんて言われながら、色々なことを教わったことを思い出しましたが・・・・。 そういえば、防衛大学校にも、「ブッカンバ」「エンカン」など、意味不明な言葉があふれていました。今の人たちには、通じるんですかね??》

調理器具の話が出ましたので、もう一つ。今から35年ほど前に、山崎君という若者が、ル・コントの料理長の紹介でやってきました。

ル・コントとは、ムッシュ・ル・コントで、私の師匠ドラべーヌの友人で、ホテルオークラの製菓長を経て独立し、六本木にパティスリー・ル・コントを1968年に創業。その後青山ツインタワー、新宿伊勢丹に店を構え、惜しいことに1999年、68歳で亡くなりました。フランスから帰国したときに、色々と手助けしていただき、私を表舞台に引き上げてくれた方でした。

話を戻しますと、イチゴレードルってご存じですか?イチゴレードルです。調理器具です。この話は、山崎さんからもってこられました。

彼は、高校卒業後、名古屋のホテルに就職し、調理部に配属されました。めずらしく調理の経験はなく、普通は料理の専門学校から入社するのですが、彼のお母さんが宝塚歌劇団出身でバーを経営し、お父さんも飲食関係だったのですぐに就職できたようです。そこでこのイチゴレードルが出てきました。

先輩から「おい、山崎、イチゴレードル持ってこい」と云われ、持って行くと、「山崎、お前ふざけてんのか」と云われ、思い切りぶん殴られたそうです。皆さん、この先輩、少しおかしいと思いませんか?なんで殴るんだよ、と。それはイチゴレードルだからです。

この山崎君は、イチゴレードルが判らなかったのです。しかし、早く持って行かなければいけないと焦って、1番先にきたイチゴから、イチゴ型のレードルだと考えたのです。

レードルを日本語に訳すと、お玉。そう、お味噌汁をよそるお玉です。イチゴ型のお玉だと。あるのです。調理場にこのイチゴ型のお玉が。イチゴの形をしたレードル(お玉)で、煮物をよそるときに使う、レードルに小さな穴がたくさん空いている、まるでイチゴのようなレードル。これだと思い、急いで持って行ったわけです。

しかし、先輩の云ったイチゴレードルは、“一合レードル”だったのです。先輩が怒るのも無理はありません。この忙しいのに、何だこいつは、と思って当然なのです。バカバカしい話ですが本当の話なのです。 

この話を書きながら、「文章がおかしくないか」と家内に聞くと、大声で笑っています。

ご家庭で、お玉でお出汁などをよそるときに、汁だれしない方法をお教えいたします。それはお出汁を鍋からすくい上げたときにもう一度、お玉の底をお出汁に少し着けてください。二度付けすると底に汁だれで集まった汁がお出汁に、一瞬に流れ、汁だれしにくくなります。切れが良くなります。

これを書いているうちに、書く内容が少し変わりました。

そう、皆さまの役に立つことを書いた方が良いと、家庭での料理中によくありがちなこと、間違いではないのですが、一つのコツだと思って、見てください。

まずフライパンです。

フライパンで調理するときに、材料を入れると、皆さん、フライパンを動かしませんか?たぶん」大多数の方が煽ったり、菜箸で材料を混ぜたりしませんか?

フライパンを使う目的は、強火で表面に膜を作り、うま味を閉じ込める調理法の器具なのです。ですからフライパンに入った材料に熱が伝わっている最中に動かしてしまうと、熱が伝わらなくなり、膜ができづらくなります。それを頭に留め置いて、1、2、3、4、5位、数えてから動かしてみてください。野菜炒めなどは、味が変わると思います。

野菜炒めは、切り分けた野菜を一遍に炒めるのではなく、火の通りづらい順から炒め、その都度、少しずつ味をつけていくと美味しくなります。ちなみに、煽ったり、菜箸で混ぜたりしているのは、作っているような気分になるからだと、私は思います。

もう一つ、揚げ物ですが、揚げるときには、プールに入るときを思い出してください。プールサイドで足からゆっくり降りるのと、ジャンプして足から降りるのとの違いで、どちらが撥ねるかということです。材料をゆっくりと油の中に入れ、自分とは反対の方に、これもゆっくり入れていきます。火傷すると思って怖々すると、かえって危険です。 長くなりましたので、別の日に、切り方や火の通し方などをお話しします。