1 機能組織作り
私は2度、自殺者を出した直後の職場の管理者、指揮官として赴任したことがありました。そのときに、一番心を砕いたのが「職場つくり」です。
よくこんなことを言っていました。
『人は1日24時間、1年365日の時間を与えられているが、そのうち、仕事をする時間は1日8時間。通勤する時間も、帰宅した後も仕事のことを考えている人は多い。少なくても1日の半分は仕事のことが頭から離れない。
仕事をしている時間は、20歳から60歳くらいまでの人生の最も生き甲斐のある時代の、その半分以上の時間を仕事に費やしている。
その職場に行きたくない、面白くない、辛い、やり甲斐がない・・・・、なんと不幸なことか。もし部下にそのように思わせているなら、何と罪作りなことか。自分たちの職場は、自分たちで楽しくしようじゃないか。
毎日、出勤するのが楽しみで仕方がない。奥さんや子供さんに「何でそんなに楽しそうに仕事にいくの」って言われるような職場にしようじゃないか』。
『あなたは、部下の人生を握っている』と。
100数十人の部下がいれば一人ひとりに個別に対処することも難しいですし、抜けが出てくる可能性がありますが、雰囲気の良い、働きがいのある職場から逃れることができる人はいません。
そこで目指したのが、単純に、雰囲気の良い、働きがいのある職場作りでした。
二つの職場には、共通していたことがありました。
一つ目は、仕事に不要な人間関係の気配りを入れていて、その人間関係を自慢していることでした。「あの人がこう言った」「この人がこんなことを言っていた」と、その仕事に関係のないベテランや先輩への過剰な反応や配慮優先していました。
そして、上司である私の好みがこうだとか、これを求めているのだという忖度がはびこっていました。
具体的にやったことは、極めて当たり前の、次のようなことでした。
・仕事のやり方の問題点を改善して無駄をなくし、業務を効率化する
・職場内の連携を良くして意思疎通を図り、助け合うことを当たり前にする
・部下(後輩)を育てる教育指導の場を設けて仕事の質を向上させる
・担当者に、最後まで自分の力で仕事を完結させる
退職した後に聞いた話ですが、当時の部下たちは、「仕事はすごく厳しかった」と、口を揃えて言っていました。仕事のやり甲斐や楽しさと、仕事への厳しさは別物です。プロであればあるほどそうだと思います。しかし、楽しくなければ良い仕事はできません。
自分の仕事を最後まで独力で完結させるように、指導と言うよりもアドバイスすると、やり甲斐を感じて仕事に対する責任感が強くなります。「自分で自分の首を絞めるな」と言わなければいけないほど、頑張る職場になりました。
人間関係のストレスを排除して仕事に集中できる、機能的な組織に変えることに成功した、ということです。
職場では、個人的な好き嫌いの人間関係よりも、いい仕事ができて良かったねと、達成感と喜びを共有して、仕事を通じてお互いに尊重し合うこと以上に求めるものはありません。
仕事に影響していることであれば、個人的なことにも口を出したし、相談にも乗りましたが、仕事に関係のない話は、少なくとも職場で話すことではありません。
当然、先輩後輩の関係よりも、仕事の機能的なつながりが優先されますから、職場での人間関係も一変して和やかになりました。
二つ目は、優秀な隊員が口を揃えて「幹部になんか、なりたくない」と言っていたことでした。それは組織に対する、漠然とした不信感の表れであったと思います。
退職後ゆうちょ銀行に入って全国の店舗をヒアリングして回っているとき、やはり落ち込んでいる店舗の社員が皆「管理者になりたくない」と言うのを聞いて、どこの組織も原因は同じだなと感じたことがありました。
私が転勤した後、その隊員たちは皆、幹部試験に合格し、バリバリ仕事をしていたのは、何よりも嬉しい報告でした。
「他者とのつながり」は、レジリエンスを考えるときの重要な要素ではありますが、目的に合わない「他者とのつながり」は、組織全体をゆがめてしまいます。
職場のストレスが、組織の健全性にまで影響するという典型的な一例です。
かなり後のことですが、そういう「職場つくり」を研究している学者がいるのを知ったのはちょっとした驚きと喜びでした。とても素晴らしい内容なので参考に紹介します。