1 何が問題か
問題解決の方法に、「これだ」という万能の特効薬はありません。
状況によって、同じ問題点の例は、二つと存在しないからです。
環境が異なることはもちろん、それに対処する人たちの経験も能力も性格もその組み合わせも異なります。仮に同じ役職名の職に就いていたとしても、まったく同じ状況になることはあり得ません。
そういった違いがあることを認識できない人ほど、問題点を正確に把握できず、悩んでいるケースが多いように思われます。
・何を求められているのかが分からない
・問題点が分からない
・知識がない
・理解できない
・前例がない
・どう考えて良いか分からない
・考えがまとまらない
・時間に間に合わない
問題点は明らかなのだが、所掌範囲を超えていて、あるいは広がりがありすぎて、問題の解決方法が分からない、問題解決に着手して良いのかどうかが分からない、というのもあります。
・仕事の関係者や仕事の流れが理解できていない
・仕事そのものではなく、人間関係に問題がある
細かく挙げれば切りがありませんが、主要なものはこんなものでしょう。
このなかに「何が求められているのかが分からない」という問題があります。
こんなことを言うと周囲からバカにされそうな気がしますが、一番“バカみたいな”問題だけれども、実は最も基本的かつ重要で、普遍的な問題です。
国内外の情勢が不透明かつ流動的で、どのような突発事態が起こるか予想できない時代。日本だけではなく、世界中のあらゆる組織のトップ・リーダーが頭を悩ましているのがこの問題です。簡単に言うならば、先が見えないということです。
国際社会、国内社会、地域社会から、組織から、上司から「何が求められているのかが、分からない」、国や自治体や会社や組織が、「これから、どうしていいのか分からない」、「確信を持って、進むべき方向を示すことができない」・・・・。
世のなかのすべてのリーダー達は、現場で悩んでいるあなたと同じ問題を抱えているのです。考える手がかりさえも見いだせない、ということです。
しかし、悩んでいても解決できる問題ではありません。待っていても、誰かが答えを出してくれるものでもありません。
誰かが、自分で方向性を決めなければいけない問題なのです。
ここでは考え方だけに留めて、具体的には、別の機会に、ケーススタディで学ぶのが分かりやすいでしょう。
2 役割分析
自分の評価と他者からの評価が一致しないことによって、生じる不満、問題意識、ストレスがあります。
そのギャップが生じる一番の原因は、どのような理由があれ、「評価は他者がする」ことを忘れていることにあります。評価者の期待を知ろうとしない限り、このギャップは埋まりません。
仕事であれば、上司の評価が中心になりますが、先輩、同僚、後輩の評価の影響が、上司の評価を上回る場合もあります。利害関係者であれば、利のある人には評価が高くなりますし、害のある人には低くなります。
他者の目から見たときのあなたが期待されているものを再確認して、自分の意識と他者の期待値とのギャップを埋める作業がこれで、あらゆる角度から自分を見つめ直します。
そのなかから果たすべき役割を見いだし、目標を決定します。
問題点を考える出発点は、周囲から求められている役割や存在意義は何かを定義づけすることから始まります。分析する視点は、家族、サークル、地域、組織、仕事としての他、社会的、あるいは政治的意義づけなど、多面的なものになります。
そして、ここにはあなたの価値観が反映され、それは、あなたの心を活性化し仕事へのモチベーションを高めるものになるでしょう。
① 任務を明らかにする
任務は、明文化されている場合もありますし、そうでない場合もあります。明文化されていないときには、自分で自分の任務を“仮置き”して構いません。
② 地位を明らかにする
組織のなかで、どのような地位(立場)にあるかを明らかにします。組織内だけではなく、社会的な役割にまで広げて考えて構いません。
・職務機能
・職務能力
・経験
・人間関係
・その他
できるだけ、幅広く列挙します。
例えば、職場のなかで、最年長者である
○○について、高技能者で、指導する立場にある
職場経験が○年で、最も短い
職場の管理者のナンバーツーである
強みは、○○である
弱みは、××である
職場を代表する立場であれば役職に応じた地位が主となりますし、加えて、属人的な(個人の能力、性格、人間関係に応じた)地位も明らかにします。
③ 地位に応じた役割を明らかにする
周囲からの期待値を含みます。
例えば、個人であれば、組織上の期待値
上司からの期待値
同僚からの期待値
部下からの期待値
関係者などからの期待値
また、会社などの組織であれば、仕事を通じて達成すべきもの、
政治的な期待値、意義
社会的(全国的、地域的)な期待値、意義
メディアの評価
ステークホルダーの期待値
社員の期待値
などを考慮します。
個人や組織の自分に対する期待値をどのようにとらえ、存在意義や活動の社会的な意義をどこに見出して行動するのか。
周囲から求められている役割、期待されている役割を確認することにより、人や社会のお役に立つ、貢献することを強くし、意識するようになります。
社会や組織のなかにおける存在意義や仕事の目的が明らかになると、任務遂行に対するモチベーションの再確認にもつながります。
これから具体的に考えていくための枠組みや緩やかな方向性を確認する作業ですから、あまり細かく分析することは意味がありませんし、むしろマイナスになってしまいます。思考の幅を狭めて、発想を縛ってしまうからです。
間違っていたと思えば、フィ-ドバックして修正しても構いません。思いついたときに書き加えていっても構いません。
短期的な視野でも仕事をするときであれば、任務、地位、役割を数行にまとめれば良いでしょう。
長期的な視野での仕事をするときであれば、10年後の地位、役割を考察して、並べて比較してみると、時間的な業績評価予想が加味され、今どのような役割を果たしているのか、あるいはこれからどのように果たしたいか、目標の方向性が現れてきます。
3 目標
先に掲げた役割を果たすために達成すべき目標を具体的に考えます。
具体的な目標が与えられていないとき、あるいは不透明、不確実、流動的な情勢下にあって目標が定まらないとき、自ら役割を決め、それを実行するために具体的な目標を決める必要があります。
分析した任務、地位、役割に基づいて、期待される目標を、
上限として:「必ず達成しなければならない目標」から
下限として:「達成することが望ましい目標」までの
「幅をもって」決めるものです。
もし、具体的な目標を任務として示されていたならば、それは「必ず達成しなければならない目標」になります。
直感を頼りにして構いません。
最悪の状況から、最高に幸運な状況になった場合までを考察し、幅を持って決めます。計画策定時の目標が、最悪と最高の間に入ってくればいいという程度のものになります。
明らかに間違っていると分かれば、気がついたときにフィードバックして修正します。
どんぶり勘定で感覚的に、敢えて表現すれば、目標の下限は、自分が適正と考えた値の3~5割低いレベル。上限は5~10割高いレベル、という幅になるでしょうか。
数値的な目標だけではなく、役割分析の結果を生かして、組織のなかでの存在意義、社会的な意義や価値の追求までを含めて目標を定めます。
数値目標を達成することによって実現すべきものを明らかにする。これは組織目的を再認識したり、活動の目的を明らかにしたりすることにつながります。