2001年2月25日に出版されたこの本、副題「公に尽くす真のリ-ダートとは!」にあるように、防衛大学校の卒業生だけではなく、国のリーダーたるべき多くの若い方々に読んでもらいたい本です。

宣伝されることもなかったので、存在そのものを知らない方が多いのではないかと思うのですが、少し関わったので、ご尽力くださった故牛場昭彦さんに感謝を込めて、出版の裏話を紹介します。

私が広報室勤務当時、初めて、防衛大学校卒業式での来賓祝辞を、卒業式を取材した新聞記者からもらって、手に入れて、読みました。

「いい話だったよ」「見せて」「えっ、吉田さん知らないの?記者には配られたよ」。

その年の卒業式来賓は、作家の塩野七生さん。『ローマ人の物語』の大ファンであったこともあり、祝辞に大感激。それから毎年、卒業式に出席する新聞記者にお願いして手に入れていました。

そんな折、広報室にお見えになっていた牛場さん(当時、産経新聞編集委員)に、「防衛大学校の来賓祝辞は、単に卒業生に対する祝辞というだけではなく、自衛隊全体、日本の国全体へのメッセージを込めて語っていると思うのですが、出版することは出来ませんか」と、数年分の祝辞をお見せしました。

「いいじゃないか」。「じゃあ、今までの祝辞を集めてくれないか」ということになり、内局の広報に尋ねると「防衛大学校の所掌だから、持っていない」。

防衛大学校に問い合わせると「卒業生への祝辞は、外に出す性格のものではないが、手に入れてどうするのだ?」とにべもない返事。

内局も防衛大学校も、それはその通りで仕方ないことなので、「牛場さんだったら、手に入ると思いますから、お願いします」と丸投げしました。

「遅くなったけれど、約束していたのがやっとできた。半分は使わせてもらうけど、吉田さんが言いだしっぺだから、使ってください」と紙袋で差し出された10冊の内の1冊がこれ。

かなり日数が経っていたので、本を開くまでは何のことだかピンとこなかったほど。手にして一言目に、とても失礼にも「あれっ、三浦朱門さんですか。牛場さんが出したんじゃないんですか」。

「新聞記者がこんな本を出しちゃいけない。防衛大学校の卒業生にも話をした来賓にも、失礼だ。おこがましいことをしちゃいけない。こういうものは、ちゃんと相応しい人じゃなくちゃいけないんですよ」。

「どういう風に、宣伝するんですかね」。

「宣伝するようなものでもない。出していることに価値があるんですよ」。

「ところで、俺の親父も話をしていたんだなぁ。知らなかった。そんな話はしたことがなかった」。

「へぇ、何時ですかね」と本をめくって気がついたのが、私が卒業した年。「しまった」と思いながら、またまた失礼にも「まったく覚えていませんでした」。

「そんなもんだよ(笑)。覚えている方がおかしい」。

その後、お亡くなりになる直前まで、よく話しましたが、この話しはこれっきり。

三浦朱門さんが引き受けてくださったことは間違いないのですが、あとから考えれば、このような本にご本人が自分の写真を大きく出すことはないでしょうから、牛場さんのご努力が大きかったのでしょう。出版社が著者に渡す20冊のうち、10冊をいただいたのだ・・・と勝手に思っています。

牛場さんが鬼籍に入られて、ちょうど10年。多くを教えていただいたなかで、牛場さん一流の、見識を感じた出来事でした。

こんな裏話を出すことは嫌がられることは間違いないのですが、来賓の方々の国への思いが込められた、真に“リーダーに与うる書”を紹介すると言うことで、お許し頂きたいものです。

感謝、合掌。