組織は機能集団である、これが基本です。
目的実現のため人が集まると“組織”になるのですが、ここに大事な要素が2つあります。1つは組織目的。もう1つは機能、すなわち役割分担です。
まず、機能の視点から、話します。
目的達成に必要な人をグループ化していくと一つひとつの小さな専門性のある機能グループになり、その専門性はだんだん強くなっていって組織ができてきます。
この機能は、あくまで役割を分担しているのであって上下関係ではありませんが、そのうちにそれらの機能別の組織を管理したり、統制、調整をしたりする役割を持つ人が必要になってきます。
これもまた機能の一つでしかないのですが、どうしたことか、自分が組織を管理する役割になった途端、役割を分担して働いていることを忘れてしまい、管理する者が上下関係で動かしているのだと勘違いする人が出てくるのです。
リーダーが命じたことを実行するのが部下であって、命じる立場のリーダーの方が偉いのだ、という発想です。
組織づくりをするときに必要な視点が、幾つかあります。
一つ目は、組織の機能を最高度に発揮させるのがリーダーの役割だ、ということです。
専門家である部下の能力が発揮できるようにサポートして、部下の仕事をやりやすくするのが上司で、部下を助けるのが上司の役割。ところが、上司を助けるのが部下だと思ってしまう人がいます。
部下に大事にされると、大事にされることが当たり前のようになってしまい、だんだん感覚が麻痺していくのが人間。
部下の人たちが、「大変でしょうから」といたわりの気持ちで一生懸命にケアしてくれているうちに、そうするのが部下で、そうしてもらうのがリーダーだと勘違いするのです。
また、リーダーが自分で動くようではいけないのだと、何でもかんでも部下に命じる人がいます。「風呂屋の亭主」のような「言うばっか(湯しかない)」という人。これもリーダーに相応しくありません。
役割を持った専門家が仕事をしなければ仕事にならない集団が組織ですから、部下は、リーダーのために働いてくれている大事な“お客様”でもあるわけです。部下に働いてもらって給料をいただくのですから、リーダーにとって部下は、まさにお得意様です。
そう考えた途端、発想が180度逆転して、部下を専門家として尊重しなくてはいけない、お互いに尊敬できる関係を作っていかなければ組織は成り立たない、ということに気がつきます。
もの作りの職人さんを束ねて仕事をしてもらうことを考えれば、すぐに理解できるでしょう。専門家を大事にしなければ、良い仕事が出来ません。
ではその専門家をどのように働いてもらうのか。
一つには、常に明確なニーズを出し続けること。
専門家が時代の変化に気がつかない可能性があります。自分の世界に籠もってしまって、周りが見えなくなったり、外の世界や全体の動きに気がつかなくなったりするからです。
二つ目は、環境の変化に適応していくこと。
環境の変化に適応していかなければ進歩は生まず、相対的に後退してしまいます。
革新的な技術の導入もそうです。
今の仕事に満足してしまうと、創意工夫がなくなり、新しい仕事のやり方やツールの導入を拒んだり、役割を変えることを拒んだりします。
三つ目に、自分がどれほど価値のある仕事をしているのかの気付きを与えること。
仲間に部内に部外に社会全体に、どれほど大きな影響を与えているかに、気がついていない場合もあります。専門性の高い仕事に価値を見出し、気付きを与えることがリーダーの役割です。
最後に、専門家をコーディネートして、チームとしての能力を最大限に発揮させること。
専門家の意見は、尊重しなくてはなりません。同時に、独りよがりにならないようにチームとしての機能を磨き、連携の無駄を無くすことによって、いわゆる生産性を高めていくことです。
日本では、専門性の高い人を「地位」で処遇しようとする傾向がありますが、専門家は専門家としての技能で評価し、専門家としての技能に関する責任権限(発言権)と給与で処遇するのが、組織本来の在り方です。
もちろんここで言っている技能には、管理者の管理能力も技能として評価することを含みます。
機能集団としての価値を高めていくことが、強い組織を作るための必要条件です。
そうしていくことで年功序列も、定年制も、男女格差もなくなって、真の能力主義が生まれ、組織の多様性がごく自然な形で担保されることになるでしょう。