■対応
統括地域防災調整官 高橋由典
■概要
Q 庄内川の治水は、どういうふうに目標レベルを設定しているのでしょうか。
A 平成12年(2000年)9月11~12日に起きた東海豪雨の教訓を踏まえて、同規模の洪水による被害を防止することを目標にしています。
近年は、気候変動により降雨量が増加する傾向にありますので、流域に関わるすべての関係者が協力して災害対策に当たるよう「流域治水」に努めています。
Q まず、庄内川の特性を教えていただけますか。
A 岐阜県から愛知県にわたる約100kmの長さで、周囲の山地、丘陵から盆地状に細長く伸びた地域に雨水が集まって庄内川となっています。名古屋市の新川洗堰付近で支川の矢田川が合流し、名古屋市の海抜の低い地帯に流れ込んでいます。
Q 庄内川の流域は市街地が多いようですが、流域には田畑など、川から外に水を逃がすことのできる遊水地になる場所はあるのでしょうか。
A 名古屋市内には小田井遊水地がありますが、瑞浪市、土岐市、多治見市、春日井市、名古屋市と市街地が連続していて、流域に遊水地はほとんどありません。
Q 河川事務所は、約100kmに及ぶ流域の管理をどのような組織でなさっているのでしょうか。
A 岐阜県を土岐川出張所、愛知県の上流域を庄内川第二出張所、下流域を庄内川第一出張で管理しています。岐阜県の小里川ダムには、小里川ダム管理支所を置いています。
Q どのような治水事業をおこなっているのか、教えていただけますか。
A はい。河川改修、維持管理、河川環境の保全、小里川ダム管理の四つがあります。令和4年度の事業費は、河川改修約29億円、河川の維持管理が約17億円、小里川ダムの維持管理が約5億円河川環境整備が約2千万円で、総額約51億円になります。
河川改修の主要事業には、庄内川の流域が最も狭くなっている枇杷島地区の河川堤防を広げてかさ上げする工事があります。枇杷島地区は、東海道新幹線や東海道本線や名鉄名古屋本線の橋梁がかかっている場所ですので、大変難しい工事になります。同時に、河道を掘削し、庄内川の流下能力を高くして、洪水時の水位を下げる工事を進めています。
堤防の補強工事として、小田井遊水地の堤防の強度を上げて地域の安全性を高める工事と庄内川と矢田川が合流する山田地区の堤防の強度を向上する工事などがあります。
また、多治見市の豊岡地区では、市街地の既存の堤防の上にコンクリートブロックの構築物を載せるような形で堤防の高さと強度を上げる工事をしています。
Q 河川改修や維持管理は、過去のデータに基づいて整備されているのだと思うのですが、それを超える豪雨などへの対策については、どのようにお考えですか。
A 気候変動への対応は、大きな課題だと考えています。気候変動シナリオでは、世界の平均気温が2℃上昇すると降雨量が約1.1倍になると言われていて、それとともに河川の流量が約1.2倍になり、洪水の発生頻度は約2倍になると予想しています。
そうなると現在計画している整備では、実質的な安全が確保できない恐れがあります。
そこでハード面だけではなく、ソフト面も含めて、流域全体で治水を考える「流域治水」という考え方をとるようになりました。
Q 「流域治水」とは、関係者や施策など、具体的にどの程度の範囲までのお考えになっている取組なのでしょうか。
A 河川の流域のあらゆる関係者が協働するということで、県、市町から、企業、住民までを対象に考えています。施策としては、インフラ整備は当然、土地の利用規制、移転促進、金融制度による誘導、災害に関する情報提供、関係者の情報共有、BCPの策定などを含んだあらゆる施策を対象としています。
Q 素晴らしい構想だと思うのですが、河川事務所、国土交通省の仕事としては、所掌業務を超えているように思いますし、役所の縦割り行政を調整するのは非常に難しいことだと思います。この施策は、誰が事業主体になって、どのように進められているのでしょうか。
A 今、「東西を繋ぎ、日本経済を支える名古屋都市圏を水害から守る流域治水対策」を目標として掲げた「庄内川水系流域治水プロジェクト」を進めています。
丁度、この2月22日に「土岐川・庄内川の水害から命を守るための会議 幹事会」を開催したところです。
ここでは、河川事務所が実施するハード対策はもちろん、関係機関が実施するソフト対策について、5か年の取り組み項目、取り組み機関、重視する取組、進捗状況を具体的に示して、関係機関が進めている取組を紹介しました。
この事業主体は、庄内川河川事務所になります。
Q コーディネート役として、このプロジェクトを進めている。そして、構成員の参考になる好事例の取組を紹介してモチベーションをあげ、情報交換することによってプロジェクトを進めていくということですね。住民の避難や警報等の情報提供に関しては、どのような役割を果たしていらっしゃるのでしょうか。
A 住民の避難は、基礎自治体の責任でやっていただくことになります。
避難に必要な警報等は、気象庁のキキクル(危険度分布)に基づいてなされるように改善されています。
Q キキクル(危険度分布)では、土砂キキクルや洪水キキクルがありますが、河川事務所と気象台や自治体とは、どのように連携されているのでしょうか。
A 河川事務所は、河川の水位等に関する基礎的な情報を誰でもいつでも見られるように出していますが、キキクルや警報に関して、特に連携をとっているわけではありません。
キキクルは気象庁の責任で出していますし、住民の避難指示は自治体が責任をもってやっています。
当然、事務所長が必要に応じて直接、首長等と連絡調整することはあります。
Q 河川事務所がハード面だけではなくソフト面を含んで、地域防災を一体化させる重要な役割を果たしていることがよく理解できました。お忙しいなか、お話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。