先回は、災害に対処するには、四つの判断があると述べました。
- 対処するかしないかの判断
- 逃げるか、逃げない(対処する)か、の判断
- どう対処するかの判断
- どのように行動するかの判断
自衛隊的に例えれば、①は戦略上の判断で、②③は作戦上の判断、そして④は戦闘上の判断になります。
この四つの判断の裏側には、自然現象という「天与のもの」には、人間の力では抗しがたい部分があり、受け入れざるを得ないのだ。自然現象は千変万化するので予測不能なところがあるのだからあきらめざるを得ないのだ、という前提があります。
それを前提に、自分の能力でどうやって進んでいこうかと考えます。
受動的な対処ではなく、能動的に進み、場合によっては機会をつかむことまでを考えるのです。
災害に対して、自分自身の考え方ややり方を変えなければならない部分は何かを判断して、逃げるか逃げないかを考える。対処できるならば、どう対処するかを判断し、どのように置くどうするかを考える。無理だと思ったら、諦めて、被害を局限することだけを考える。
当然、チャンスがあればそれを活かすことも思考の範囲内に含むのが危機管理です。
厳しい自然環境のなかにあって、自分が対処できる部分はどこまでか、常に精一杯に努力して、創意工夫しながら自分ができることを着実に実現しようとし続ける柔軟さを身につけたから、日本の進歩があったのではないでしょうか。
トヨタの改善に取り組む話に誰もが納得するのは、それが日本人のDNAだからなのだと思うのです。
自然現象や災害を「天与のもの」として受け入れて、改善し続けなければ生きていけなかったところに日本人が知らず知らずのうちに身につけた、進歩のノウハウと由縁があったと考えるのです。
20世紀前半の激動の時代は、そのDNAが遺憾なく発揮されていたのですが、20世紀後半になると、自然現象は極めて変化の少ない時代となり、経済は直線状に成長し、国際情勢は安定化した平和な時代になり、変化に対する改善の努力と危機管理の意識がほとんど失われてしまったように感じられます。
ところが21世紀に入り、自然現象も国際情勢も、大きく変化する時代に入ってきました。
もう一度、日本人の環境変化に対する柔軟性、すなわちリスク管理能力や危機対処能力などの資質を磨き直さなければならない時代になってきたのです。
そのときに必要な基本的な考え方が、四つの判断になるのではないでしょうか。
災害を予見、予想したとき、それを乗り越えて目標に向かって進むことを考えるのです。そして、災害に出会ったときには、それを乗り越えて新たな世界に向かって進もうと発想するのです。
常に主体的に考えて行動する人にとって、災害や環境の劇的な変化は、大きなチャンスになり得るものだと考えます。