ギリシア語では「時」を表す言葉として、カイロス「時刻」とクロノス「時間」の2つがある。
カイロスは、ギリシア語で「機会(チャンス)」を意味するギリシア神話の男神で、ゼウスの末子。前髪が長くて後頭部が禿げている美少年として表されている。
「チャンスの神は前髪しかない」とは「好機は出会った瞬間に捉えなければ、通り過ぎてから捕まえることはできない」という意味で、この諺はこの神に由来するものらしい。
両足に翼が付いていて、逃げ足が速い。
カイロスは、「刻む」という動詞を語源としていて、一瞬を意味する。
人間の主観的な時間、内面的な時間を表わすこともある。人間の意識としてとらえる時間であり、一生に一度しか会うことのできない不思議な縁を表す「一期一会」という時間は、まさにカイロスである。
クロノス(Χρόνος)は、時の神だとされているが、これと言って物語はなく、農耕神クロノス(Κρόνος)と混同されるという話題くらいしかない。
過去から未来へ一定速度・一定方向で機械的に流れる連続した時間を表現し、物理的時間であり計測可能な時間を表す。
chronometer(クロノメーター)、chronology(年代学)、chronicle(年代記)、synchronize(同調させる)、anachronism(時代錯誤)、chronic disease(持病)などは、クロノスに由来する。
カイロス「時刻」とクロノス「時間」、どちらも人間にとって不可欠なものだが、人間を主体に考えるとき、その瞬間をいかにとらえるのかが重要だということだろう。
機会(チャンス)を捕まえるには、準備がいる。
一つは、何かをしたいという目的、動機を持つことだ。もう一つは、具体的に行動しようとする発意、意志を持つことだ。夢や希望は、具体的な行動に結びついたときに、実現する。
中学生の頃、数学の老先生がこの話を教えてくれたが、前髪が長くて後頭部が禿げている美少年なんているものか、と思ったことを覚えている。
美少年かどうかはともかく、捕まえてみなければ分からないのが好機(チャンス)であることは間違いない。行動しなければ、何も起こらないのだ。