日本語にも、さまざまな時間の表現がある。

一般的には、瞬間を表すのが「時刻」、一定の期間の長さを表すのが「時間」で、これはギリシャ語のカイロス(時刻)とクロノス(時間)に同じ発想だが、日本人の精神性を現わしている特徴的な言葉に「中今」がある。

本居宣長が『古事記伝』で、神道の根本的な考え方として語っていることで知られている。本来、時間的、空間的、精神(霊)的な意味から現在を幅広く、複合的、総合的に表していて、広辞苑では「過去と未来との真ん中の今。遠い無限の過去から遠い未来に至る間としての現在」と解説されている。

私たちは、過去があって現在があり、現在が又未来を築くそのなかで生かされているものなのだから、この今の一瞬を大切にして精一杯に生きなさい。ただこの一瞬だけではなく、今につながる過去(歴史)を意識し、将来の目的に向かって一生懸命に生きなさい。今の自分の存在は、これまでの人生の結果であり、未来の自分は将来に向かって今どう生きているのかで決まるのだ、という人生訓を語る言葉になっている。

この「中今」は、ストレスを解消したり、困難を乗り越えたりして生きていくうえでも、理にかなった考え方だ。

  • 今この瞬間に集中することによって、無用な不安や憶測をすることを抑制できる。
  • 無用な不安や憶測によって生まれるストレスが少なくなる。
  • 今取組んでいることへの効率性が上がる。
  • 過去や周囲とのつながりを意識することができる
  • 懸命に生きることで当然、目的を意識し、その先の目標に向かう意欲が高まる。
  • 目の前の問題を解決する力や自己効力感が強くなる。

レジリエンスが高くなるのだ。

ただの生き方や人生訓や考え方を現わしているだけではなく、心理学などから根拠のある科学的な説明ができる、効果のある言葉なのだ。

災害の歴史のなかで発展してきた日本人が、困難を乗り越えて生きていくなかで身につけた知恵の結晶として、日本人の生き方が現われている言葉だと思う。