「明治天皇と軍事」(渡邊幾次郎著、千倉書房、昭和11年)という本は、政治的、軍事的、あるいは人の上に立つ者としての在り方を示す、國家のリーダーの在り方として、極めて示唆に満ちている。
まず、「統帥の基礎」から始まる。
「天皇の国軍統帥の状を拝察するには、まず国軍統帥の因って生ずる国家統治の御精神から拝察せねばならぬ」、「統帥の目的は仁を実現することで、(略)国家を泰平西、人民を幸福にし、安寧ならしめることである」と文武天皇の詔「此ノ食國天下ノ調タマヒ平ケタカヒ天下ノ公民ヲ恵ミタマヒ撫タマハン」を引用し、歴代天皇の国家統治の大訓は古代から連綿と受け継がれているものだとしている。
天皇が皇位にあって、この國土を統治したまうのは國家万民のためで、一身のためでないという犠牲的精神こそ、天皇が祖宗から受け継国家の大計と後世の政治の手本となるべきもの(皇謨)で、これは伊藤博文が著した憲法義解においても、天皇の国家統治は私事ではないことが憲法の基礎だ、と説明している。
そして、次のように記している。
「明治2年8月3日英国皇子に与えたまえる御製に
世を治め人をめぐまば天地の
ともに久しくあるべかりけり
とはこの意味である」。
このエディンバラ公アルフレッド皇子が海軍軍人・軍艦ガラテア号の艦長として来日されたのが、日本の皇室外交の始まりだった。
6月22日から、天皇陛下は英国王室を訪問されるが、明治天皇の御製は、日英両国の王室の精神を現わしているに違いないと思う。